その女は団子屋の娘だった。
川沿いにある店で、そう大きくはないが、こざっぱりとしたきれいな老舗である。
なるほど近藤が見初めそうな愛嬌のある看板娘で、店に入るなり「いらっしゃいませ」と鈴の音が鳴るような可愛らしい声が店内に響いた。
しかしそれは逆に土方の神経を逆立てるものでしかなりえなかった。
すぐにでも刀を振るってしまいそうになる衝動を抑えつけながら、土方は隅に設けられた長椅子に腰掛けた。
「ここは何が美味い」
「みたらしと、ほうじ茶をお出しできますが」
「じゃあそれ」
腰に帯びた刀をかしゃりと地面に打って、女を見据えた。娘は恭しく頭を下げ、奥に引っこんだ。
その透き通るようなうつくしい頬がほんのりと桜色に染まっているのを土方は見逃さなかった。
やがて出てきた団子に噛みつきながら、土方は娘に問うた。
「最近ここに、顎ひげを生やした体格のいい男、が来てるってェのは、本当か」
娘は首をかしげたあと、口許に手をあて、「ああ、もしかしたら」とあてのある表情を浮かべた。
「あのひとのことでしょうか。貴方と同じ、刀を差している方で。最近ご贔屓にしていただいておりますが。そう、つい、先ほども」
土方は忌々しく舌打ちしたい気分になった。ここのところ、近藤が土産だと手にして帰ってくるのは団子が多かったことを思い出す。
またこのあたりで帯刀している人間など、たかが知れてる。娘が言っているのは近藤のことにちがいない。
はやくに見抜けなかった己に、心中で苦々しく詰る。
「その方が、何か……?」
「あんたには、関係ねえ」
ふい、と顔を背けた土方はしかし、思い当たるふしがあって、鷹揚に娘のほうへと向きなおった。
「なああんた、今夜あいてるか」
作り笑顔を浮かべるのは、土方にとってなんとも容易いことである。