隊士の間で流れるまことしやかな噂話はやがて土方の耳に入る。
最近近藤が出歩くことが多いのは、とある女に貢ぎごとをしているためだと。
彼らの前では「バカなことを言ってんじゃねえ」と一笑に付してやった土方だったが、自室に戻るころにはその面は完全に歪みきっていた。
眦は吊りあがり、光を失った眼球は澱んでいる。噛みしめた唇からはうっすらと血が滲んでいた。
「鬼の副長」と怖れられるそれとはまたちがう、憎悪を孕んだ顔つきであった。
「……片づけに、行くか」
刀を取り、部屋を出たとき、ちょうど廊下を歩く近藤と出くわした。
「お、どっか行くのか、トシ」
「掃除だよ、近藤さん」
握った刀をそっと背中に忍ばせて、ふわりと土方は笑顔を作った。
「掃除?」と首をかしげる近藤に、「ああ、粗大ゴミの処理をしなくちゃなんねェの」と頷いてみせる。
すると近藤は、幾分の怪訝さを残しつつも、そうか、と首肯し下顎を指先でかいた。
「一緒にお茶でも、と思ったんだが」
近藤の腕のなかに、茶色の紙袋を見つける。茶菓子だろうか、後ろ髪引かれる思いで土方は「あとでもらうよ」と言って断った。
「そうか、気をつけてな」
「ああ、アンタもな」
「うん?」
「……なんでもねェ」
土方はかぶりを振って、近藤の前から逃げるように立ち去った。
背中に突き刺さる視線が、痛くて痛くてたまらなかった。