木陰の小休止


「食うか?」
 不意をつかれた土方は近藤を見つめたまま瞬時に反応することができなかった。心のなかを覗かれたのかと思った。食いたいなァ、と思っていたところだったのだ。ほかならぬ近藤を。
 まさかこの邪まな想いがばれてしまったのか、とどぎまぎしながら「なにを」と問い返す。口に出してから気がついた。馬鹿げた質問である。近藤は握り飯を差し伸べているのだ。それのことに決まっている。
 土方は己の狼狽ぶりに苦笑しつつ、「いらない」とかぶりを振った。近藤が首をひねる。
「なんで」
「あんまり腹へってねェの」
「しっかり食わなきゃぶっ倒れるぞ。朝もあんまり食ってなかっただろう」
 じゃア口移しで食わせてくれたら食ってもイイ。
 土方は決して言えない台詞を心中で吐き出すとそっぽを向いた。この暑さで食欲は半減していたし、思考はうまく働かない。そうそれでさっきは妙な考えに耽ってしまったのだ。土方は納得しかけて、気がついた。いつものことだ。
「ほら」
 近藤が差し出した握り飯は口許すぐそばまで迫っている。これはこのまま食えということなのだろうか。土方は太陽に輝く米粒をながめ逡巡したのち、目の前のそれにかぶりついた。まるで餌付けされているようだが、握り飯は存外美味かったので良しとする。


20070929