陽炎に揺らぐ人
「草むしりって……俺も?」
軍手を受け取りながら土方は絶望的な気分になった。
この炎天下のなか、皆で庭の草むしりをしようと言い出したのは近藤である。
冗談じゃない。せっかくの休みなんだから、もっと有意義に過ごすべきだ。すっかり成長しきった生い茂る雑草を見回し、土方は異を唱えるべく軍手を握りしめた。
「近藤さん、俺らはやらなくてもイイんじゃねえ? ゆっくり冷たい茶でも飲んで」
「なに言ってんだトシ! 俺たちは運命共同体! ともに汗を流そうじゃないかッ!」
――だが、すでに麦藁帽子をかぶり首周りにタオルを巻いた近藤はやけに張り切っている。こうなったらなにを言っても無駄だろう。わかってはいるが、不貞腐れた土方はくちびるを尖らせた。
「……どうせ汗を流すんだったらやっぱり俺と」
部屋に行かないか、と口を滑らせたのと同時に、「あっ、そうだ!」と近藤が声をあげたので、土方の言葉はかき消されてしまった。
「おまえもコレが欲しいンだな」
そう俺はアンタが、とうなずきかけた土方の頭に、近藤が麦藁帽子をかぶせた。近藤とお揃いのものである。
「直射日光は危険だからなー、草むしりの必須アイテムだろ!」
「……そうだな」
もうなにも言えずに土方は肩を落とした。だが――。
「ん、トシくん似合う似合う」
近藤の言葉を聞くなり、爛々と目を輝かせながらぱっと顔をあげた。
「ほんとう? 思わず欲情しちまった? それとも押し倒したくなった?」
「はっ?」
「俺は別にいつでもどこでもイイからな! でもそうするとやっぱり草むらがあったほうがよくねえかな? だって、草むしりしたらむき出しになって周りに丸見えだし、いやアンタがイイって言うンなら俺は別にいつでもどこでも――」
「副長、なにひとりでブツブツ言ってるんですか」
熱弁を振るっていた土方は、はっと我に返った。近藤がいた場所で山崎が首をかしげている。肝心の近藤の姿が見えない。あわてて周囲を見渡すと、離れたところで隊士たちに先ほど自分にしたように麦藁帽子をかぶせている近藤の姿が見つかった。
「……ねェ」
「え?」
「なんでもねェよ! 山崎テメェ、サボってねえでさっさと草むしりして来い!」
ふんと鼻を鳴らして息巻いた土方は、呆気にとられている部下に背を向けた。平静を装いつつ縁側に腰かけると、煙草に火をつけ一服する。
近藤から声がかけられるまでそうしているつもりだ。
(……このクソ暑いなか、よく動く)
麦藁帽子の影に隠れた双眸を喧騒の真ん中に向けて、ゆらりと紫煙を燻ぶらせた。
20070821