打ち水


 土方が目を覚ましたときにはとなりは空っぽだった。すわ寝坊をしたかと一瞬あわてたものの、まだそんな時間ではない。それでは一体どこへ行ったのだろうか。のそりと起き上がった土方は、外のほうから微かに聞こえてくる滴の垂れる音に気がついた。障子を開けて朝日に輝く廊下に出ると、庭先に手桶を持った人影を認めた。
 柄杓で地面に水をまいているのは近藤である。土方は縁側に立ち尽くしたまましばしその姿に見とれていた。近藤は熱心なようすで、一向にこちらに気づいてくれない。わずかにむくれながら乱れた寝間着を手探りでなおしていると、ふいに近藤が振り向いた。
「あれッ」
 非常に驚いたふうな顔をする。
「なんだ、寝ぼけてるのか」
 ぼんやりして、と近藤が笑う。見とれていただなんて言えない。
「それはこっちの台詞。朝っぱらからどこふらついてンのかと思った」
「ははァ、そばにいてほしかったか?」
 憮然とする土方のほうへ歩み寄った近藤は、その場に持っていたものを置いて縁側に上がると土方の頭をくしゃりとかき混ぜた。
「寝癖、なおしておけよ」
 土方は、そう言って部屋に戻っていく背中を見えなくなるまで見送ると、さり気なく庭に視線を移した。
「……暑ィな」
 強まる日差しに目を細めながら、髪の毛を指先でいじる。これから気温はさらに上昇しそうだ。


20070719