項垂れた向日葵
飲み屋でしこたま酒を呷り、足許をふらつかせながら屯所に帰る。自室に戻るなり横転し、起き上がるのも億劫でその場に倒れ込んでいた。まるで死人みたいな有様だ。一瞬気が遠くなったものの、ばたばたとあわただしく廊下を走る足音が聞こえてきて意識を浮上させる。
「だいじょうぶか、トシ。すごい音だったけど」
半分開いていた襖から近藤さんが顔を覗かせた。「だいじょうぶだ」と気丈に返したつもりが、うまく呂律がまわってくれなくて失敗した。近藤さんの顔を見るなり泣きたくなった。顔を見られたくなくて下を向くと近藤さんが俺の肩を抱いて起こしてくれた。俺は近藤さんから視線を逸らした。
「俺は酔っ払ってねェよ」
「どこをどうみたら酔っ払ってねェって?」
視界の端で苦笑する近藤さんに接吻けたくなった。
「ん、これどうしたんだ」
ぼんやりと邪まなことを考えていると、近藤さんが畳の上に落ちていた花を指差した。向日葵だ。
「拾った」
「拾った、っておまえ」
「へーき。花屋で盗んできたわけでもひとンちの引っこ抜いてきたわけじゃねェから」
当たり前だ、と近藤さんがふたたび苦笑した。俺は近藤さんの腕のなかで身をよじり、向日葵の茎部分をつまんで引き寄せた。
ほんとうはどこで拾ってきたか、よく憶えていなかった。もしかすると花屋で拝借してきてしまったのかもしれない。しかし居酒屋からの帰り道に花屋はないから、その可能性はない――はずだ。
憶えているのは、その向日葵を見た瞬間目が離せなくなってしまったことだ。
「……アンタに似てるなって」
背の高い向日葵だった。太陽に向かって燦爛と輝くちいさな太陽に俺は釘づけになったのだ。
「だからアンタに土産に、って」
いま手のなかにある向日葵は、記憶にあるそれとはちがってすっかりくたびれてしまっていた。
「思ってたのに……」
「じゃあ」
近藤さんが、俺の手から萎れた向日葵を奪った。
「ちゃんと水に活けてやらないとな」
そう言って破顔する。俺にはその笑顔だけで充分だった。
20070712