灼熱の空


 じりじりと照りつける太陽が肌を焦がす。日差しから逃れるように目を瞑ってみても、瞼の裏側が眩しくてどうしようもない。
 縁側に横になっていた土方は、仕方なく太陽に背を向けるために寝返りを打ってせめてもの抵抗をしてみせた。
 自室に戻ろうかと刹那逡巡したものの、体勢はかわらず板敷きの上で横臥している。先刻立ち去った近藤が言い残した「ここで待ってろ」という台詞が、土方をこの場に縛りつけているのだった。
(別に)
 近藤の言葉を頑なに守っている義務はない。先ほどの近藤はといえば、雲ひとつないぎらぎらと輝く空を「暑い暑い」とぼやきながら見つめていたあと、突然何かが閃いたかのように立ち上がったのだった。自分を置いて。
 どうせつまらない用事にちがいない。
(気がきかねェの)
 部屋で待っていろ、とでも言われたら遠慮なくそうしているのに。
(……俺も律儀だ)
 額や首筋に垂れる汗を拭うのすら億劫だった。そう、立ち上がるのだって面倒なだけなのだ。
 土方はそう自身で結論づけて、あいかわらず灼熱の空の下に身を置いていた。
 庭のほうから足音が聞こえてきたのは、それからすぐのことだった。近藤のものだと土方はすぐにわかった。――このまま寝たふりでもしていようか。悪戯心がふと沸き起こり、そのまま身じろぎせずに待っていた。
 背後に立つ気配があった。
「トーシ」
「ア……ッ!」
 首筋に冷たい感触を受け、ぞくりと全身が身の毛だった。あわてて振り返ると、近藤が目を丸くして立っていた。両手にかき氷をふたつ持っている。
「びっくりした。へんな声出すなよなァ」
「びっくりしたのはこっちだ! 急に冷たいモンあてンじゃねえ!」
「だって寝たふりしてたから」
 近藤がくちびるを尖らせる。
 ばれていたのか、と土方は気まずくなって近藤からふいと視線を逸らした。近藤は気にしたふうもなく土方のとなりに腰かけて、かき氷をひとつ差し出した。
「ここで寝てたら熱中症になっちまうぞ」
 まるで子どもを宥めるみたいに言われて、土方はざっくりとかき氷にスプーンを突き刺した。
「だってアンタが」
「俺?」
「……動くの面倒になッちまったの」
 投げやりに言い放つ。かき氷は美味かった。これを買いに行っていたのかと土方はようやく合点した。
「あ」
 近藤が氷の山を崩しながらまじまじと土方を見る。土方は思わずからだを硬直させた。なに、と問う前にスプーンを放した近藤の手が眼前に伸びてきた。
「汗、目に入りそう」
 そう言って土方の額を粗雑に拭う。土方の手からかき氷が離れ、地面に落ちた。
「アッ、トシ!」
 土方は動けない。
 高温の地面に積もった氷は、あっという間に溶けていった。
「どうした、トシ。だいじょうぶか?」
 顔を覗き込まれ、土方は我に返る。
「……ああ。悪い近藤さん、せっかく買ってきてくれたのに」
「それは全然かまわんが……。俺のいっしょに食うか?」
 そう言う近藤も額に汗をかいている。水滴が、こめかみを伝っている。
(ふれたい……)
 口許にスプーンを運ばれ、土方はおずおずと口を開けた。
(……こんなに暑いから)
 暑さのせいにしてしまえば――。
 頬張ったかき氷のせいで、頭が割れるように痛かった。


20070710