つま先からの愛情


「トーシ!!」
 馬鹿でかい声とともに、ぴしゃんと障子の開く音が静寂に浸っていた室内に響き渡ったのは、突然の出来事だった。
 それまで安寧と惰眠を貪っていた土方は、眠りの世界から引き戻され、何事かとあわてて飛び起きた。 闖入者かと枕元に常置してある刀に手を伸ばしたあと、その声の主に思いあたり、おそるおそる首をまわして後方を振り返る。
 そこには近藤が、「驚いたか、トシ」と豪快に笑って立っていた。土方が拍子抜けするほどに。
「なに、してんの、アンタ。……ってもしかして俺、寝坊」
 言いながら、顔を青褪めさせる。だが、それにしては近藤のようすが気にかかった。 自分を咎めるような表情をしていなければ、声調も常どおりの温和なものだ。
 彼に咎められる、だなんてこと、土方にはほとんど経験がなかったけれど。
「いーや、今日はおまえは非番の日」
「え……?」
 今日、自分は休みではなかったはずだ。
 寝ぼけた頭をひねっていると、こちらへ歩み寄ってきた近藤が、にぃ、と両の口端を吊り上げた。
「だっておまえ、今日誕生日だろう」
 告げられた言葉に、土方はしばしの間瞠目する。
「だから今日はお休みな。俺とどっか行こう」
 そう言って、くしゃくしゃと整えられていない髪の毛を撫でられる。
 そういえばこのひとは、ずっと以前から、この日の休日を申請していたのだということを、ふいに思い出す。 それがまさか自分のためだったとは、夢にも思っていなかったけれど。
「誕生日、おめでとう」
 近藤のやさしい手のひらをおとなしく受け入れながら、土方の表情は、ようやく穏やかなものになった。

20070505
title by rebellion