嘲笑と微笑み
下校時刻の昇降口。靴を履き替えながら近藤が土方を振り向いた。
「そういやァ」
忘れていた、と言ってごそごそとつぶれた鞄を漁る。
鞄のなかに本来なければならない教科書の類は、教室の机の引き出しに詰め込んであるので薄っぺらくて済むのだ。
「ほら、これ」
差し出された一枚の手紙を土方は凝視した。
「……なに」
尋ねながらも心臓の音がうるさく鳴り響くのを自身で感じ取る。
訊かなくても一目でわかる、その手紙はいわゆるラブレターと呼ばれる類のものだろう。
かわいらしいピンクの花柄の封筒は、近藤の無骨な手に納まっているのがひどく不釣合いに見えた。
頼まれたんだよと平坦な声で言う近藤の声色からはなんの意図も汲み取れず、それがかえって土方の胸中をざわつかせた。
「へえ」
だから土方も、気にしたふうもなく「そうか」とだけ言って受け取った。
肩の荷が降りたから近藤がわずかに表情を緩ませたので、それが土方の癪に障る。
苛立ちを隠そうともせずに、土方は拳のなかでもらい受けたばかりの手紙を握りつぶした。
それを見た近藤が片眉を跳ね上げさせたのに気づいたけれど、気にせず近くにあったゴミ箱に投げ捨てる。
「アンタに捨てろって言っても、きっとそんなことしないだろうから」
アンタはやさしいから、と嘲笑に似たものを口許に湛えて土方は近藤に笑みを作ってみせた。
「俺はアンタだけいればいい」
あと何度言ったら伝わるのだろうかと、絶えず襲ってくる焦燥にいい加減飲み込まれてしまいそうになるのを土方は感じた。
20060930
title by pick up days