真白のシーツ


「起きろよ、近藤さん」
 土方は部屋の真ん中に敷かれた布団の傍らに仁王立ち、丸まった毛布の塊にため息の混じった言葉を落とした。
「いま起きないと、完全に寝坊だぞ」
 ご丁寧に忠告してやっているのにもかかわらず、塊はうんともすんとも言わない。 いや、ごうごうと低い寝息だけはしっかりと土方の耳にまで届いてきていたのだけれども。
 昨晩の彼の泥酔状態を思い返せば、いまの状況はなんらおかしいことはないのだ。この酔っ払いと土方は胸のうちで苦笑を滲ませた。 このまま寝かしておいてやりたいのもやまやまだが、そうもいかないのが現実の厳しいところだ。
「仏の顔も三度まで、って言うだろ」
 むんずと毛布をつかんだ土方は、思い切りそれを引っ張り寄せた。 思いのほか容易に奪い取ることのできたそれを胸に抱いて、布団の上で丸まった近藤の姿に思わず笑ってしまう。 まるで子どもみたいじゃねェか。笑い声に反応するように、不承不承に見上げてくる瞳はまだ半分夢の中にいるみたいだ。
「……誰が仏だって、」
「俺」
「仏なら、もっとゆっくり寝かしておいてくれるはず……」
「近藤さん!」
 ごにょごにょとひとりごちて、枕に抱きついてふたたび目を瞑ってしまう近藤をあわてて止めた。
 若干赤らんだ瞳をこすりながら厠へと向かう背中をきちんと見届けた土方は、布団くらい畳んでおいてやるかとまだ抱えたままだった毛布をシーツの上に落としてふと何かを考え込む。
 視界の中にはくしゃくしゃになった真っ白いシーツ。しばらくそれを見やり、おもむろにそのシーツの海に飛び込んだのはあくまで衝動的な行動だった。

 自室に戻ってきた近藤が一瞬言葉を失ったのも無理はない。先刻まで自分が寝ていた布団に、起こしにきた張本人が代わりに居座っていたのだから。
「こらトシくん、ひとには起きろって言っておいて自分は二度寝ですか」
 恨みがましい眼差しを受けた土方は、それを気にしたふうもなくにっこりと笑んでみせた。
「アンタのにおいがする」
 言えば近藤の眉間にしわが刻まれる。
「……それってオッサンくさいってこと?」
「……ふ、」
 土方はシーツに額を押し当て、くつくつとちいさく肩を震わせて笑った。
「おれ、このにおいだいすき」
 くぐもった声にますます顔をしかめた近藤が、すっとしゃがみ込み顔を覗き込んできた。
「俺よりも?」
「……ばか」
 毛布から腕を伸ばして近藤の胸倉をつかみ、思い切り引っ張ってやると倒れ込んでくる身体にぎゅうと力強くしがみつく。
 なんにせよ、この場所に勝る心地好いものはなかったので。


20060929
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