世界中で君だけ
それは人目を引くほど大きな花束だった。
ピンク、赤、黄色、オレンジなど色とりどりの可愛らしい花を、それとは似つかわしくない屈強な腕が抱え込んでいた。
土方は思わず、くわえていた煙草を口許から落としそうになった。見開いた瞳がこちらに気づく近藤の姿を捉え、慌てて顔を引き締める。
「なんだよ近藤さん、デートか?」
何気ないふうを装ってはみたが、内心ではひどく焦っていた。
近藤が後生大事そうに抱いている花束から視線を逸らそうとしても、どうしてもできない。
……デートか。土方は自分で言った台詞に自分で傷ついているのを感じ、自嘲を漏らした。
「まァ頑張れよ」
まったく、心にもないことを。
ため息とも取れる紫煙を吐き出して、諦めに似た笑みを近藤に向ける。
するとそれまで一言も発しないでいた近藤の瞳に、躊躇いの色が含んでいるのにようやく気づいた。
「……いや、コレ、おまえにやろうと思ってたンだけど」
思いもかけなかった近藤の言葉を、土方が理解することができたのはそれからたっぷり十秒経ってからのことだった。
「俺に、って、コレをか?」
それまでまるで敵に向けるような目で見ていた花束を、目を丸くして見やる。愛嬌に満ち溢れた、それを。
「花を?」
どうにも信じがたくて、重ねて尋ねると近藤はこくりと頷いた。
「花屋の前を通りがかったときにな、店番してるお姉さんに『彼女にどうですか?』って勧められて。……おまえしか思いつかんかった」
「……そこで買うほうがどうかしてるぞ」
どうせ綺麗な女だったんだろう。訊くと近藤の顔がわずかにしかめ面に変わったので、図星に違いない。
しかし土方にとって、それは今、瑣末な事柄にすぎなかった。
近藤の言った最後の言葉が、土方の心中を静かに揺さぶっていた。
「どうかしてる、」
繰り返して言って、土方は近藤の手からするりと花束を受け取った。
ふわり、鼻を掠める芳香がなんだかくすぐったく思えた。
「ありがたく受け取っておく」
「おお」
自分でもおかしいと思っていたのか、手元から花束がなくなったことで近藤がようやく笑みを零した。
土方もつられるように笑い、思い出したように近藤の耳元に婀娜のある言葉を吹きつけた。
「部屋に飾るから、今夜アンタも見に来いよ。ふたりきりで、たっぷり花見でもしようぜ」
ただし、律儀に花見を興じるかどうかは、また別の話だ。
20060702
title by 少年はにびいろをした不可避の幻を見る