水も滴る…?


 突然降り出した雨により、ふたりは息を吐く間もなくずぶ濡れになってしまった。
 ざあざあ、激しい音が耳をつんざく。
 夕立、だろうか。土方は黒髪をかき上げながら、赤い空を見上げた。それならばきっと、すぐに止むだろう。
「近藤さん、」
 前方を走るひとの、服の裾をつかんでちょいとこちらへ引っ張る。うん、ひとつ返事があって、近藤が振り返った。 降り注ぐ雨に目を細めるその姿に、逆に土方が眩しく見えて、ついと目を眇めた。
「……一旦、雨宿り」
 もうびしょ濡れなのだから、今さら雨宿りをしても、おそらく無意味だろう。 しかし、このまままっすぐ屯所に帰るのもなんだか、もったいない。
 土方は濡れた指先を、とある店の軒先に向けた。あそこだったら、この雨も防げる。
「なんだトシ、もうくたびれたのか? まったく、煙草ばっかり吸ってるからだぞ」
 土方の思惑など知る由もない近藤が屈託なく笑い、わかったわかったと頷いて、土方の指差した方へと方向転換した。
 ……布団の中じゃ負けねェよ。土方は独りごちて、近藤の後へと続く。
「あー、濡れちまったなァ」
 がしがしと大きな手のひらで、近藤が自らの髪の毛をかき混ぜた。 いつもは逆立っている髪の毛が台無しだ。土方はそれに、ちょっとだけ見惚れていた。 けれど不意に近藤がこちらに顔を向けてきたので、慌てて視線を足下に落とす。 そうして近藤の挙措を真似するように、しっとりと水分を含んだ黒髪を無造作に混ぜた。
 ざあざあ、雨は止む気配を見せない。いっそこのまま、止まないでいてくれたらいいのにと土方はぼんやり思う。
 叶うはずのない願いに心を傾けていた土方とは別に、違うことを連想していたらしい近藤が不意に首をひねった。
「なんだっけこういうの、水も滴る……、」
「水も滴るいいゴリラ?」
「そうそうソレ! さぞかしかっこいいゴリラに……って違うよトシくん!」
「ふ、冗談、」
 土方はくつくつと肩を揺らして笑う。鼻白んでいた近藤は眉をひそめ、まったく、と呆れたように零した。
「いい男だよ、アンタは」
 無邪気に言い放つと近藤は、瞠目する。それから土方の後頭部に手をかけて、軽く唇を触れ合わせた。 今度は土方が驚く番だった。思わず目を丸くした。それを見て近藤が笑う。
「おまえもいい男だ」
 湿った味のする接吻けを、もう一度だけ、交わした。

煽るな、危険。
20060630
title by tippi