悲劇のピエロ


「近藤さん、おれ妊娠したみたいなんだ」
 言うなり近藤さんのかおいろがサッと変わってそれはもう腹をかかえて笑いたくなるくらいの変わりようで、ぎこちなくおれを振り返る。 なんだって、と掠れた声で言うので(おれの大好きな声だだってセックスしてるときのことを思い出すから)、平然としたふうにもう一度「妊娠したみたいなんだ」と繰り返した。
「……トシ、おまえ男、だよなあ」
「バカなアンタでもそンぐれーわかるだろ。いままでだって散々抱、」
「あーうん、そう、そうだよな」
 おれの言葉を遮って近藤さんは頭をかいて、うんうんとひとりうなり始めた。 おれはその背中をぼんやり眺めながら枕元にあった煙草ケースを引き寄せ一本口許にくわえた。 手に馴染んだライターから火を取って紫煙を燻らせると近藤さんは眉をしかめておれのほうを見た。
「……トシ、」
「責任とってくれる?」
 近藤さんはますますかおをしかめて「トシ」といささか強めで低調な声色でおれの名前を呼んだ。 だめだよおれ、その声も大好きなんだから全然効かねェよ。
 まださほど形を崩していない煙草を灰皿に押しつけておれは悠然と起き上がった。
「――なあ、」
 困りがおの近藤さんににじり寄り、おもむろに唇に吸い付いた。 「もっかいしよう」と耳元で囁くと近藤さんも素直に反応してくれてでもやっぱりかおは強張らせたまま。 笑ったかおが見たくて「続けてヤると双子ができるかもな」とくつりと笑って言うと乱暴に畳の上に押し倒された。
「……ふとん、あっち」
 指をさそうとしたけれど両方の手首をぎっちりとつかまれていたのでできなかった。 骨を折られてしまうのではないかというその痛さに泣いてしまいそうになった。

愛してるって言ってよ
(嘘でもいいから)
20060530
title by 少年はにびいろをした不可避の幻を見る