献身的顕示


 先に帰ってもいいよと男は言った。
 土方はそれが気に食わなかった。いつもは心地好い優しい口調がやけに気に障った。
 まるで邪魔者扱いされているみたいではないか……。そうではないと知りつつ、それでも苛立ちは収まらない。 乱暴に椅子を引いた土方は、黒板に背を向け近藤の前の席に座った。
「早く終わらせろよ」
 ぶっきらぼうな言葉に近藤が苦笑する。
「わかってるよ、トシ」
「わかってンなら手ェ動かせ、手を」
「動かしたいのはやまやまなんだけど、頭が動かないみたい」
 困ったふうに笑う近藤の前には今日が提出期限である課題プリントが広げられている。ほとんど白紙状態のものだ。
 土方が教えてやると言っても、近藤は自分が考えるからと言って断固として聞かないのだ。 これではいつ帰れるかわかったものじゃない。
「だからトシ、先に、」
「いい」
 皆まで言わせずに土方は言い放つ。
「ずっと待ってるから」
 ずっと、と繰り返して口を噤む。 言葉を待ち受けているのだろう近藤から目を逸らし、土方は見やった窓の外のオレンジ色の夕陽に目を眇めた。

20060430
title by OL