プールの底
季節はずれのプールの水はわずかに濁って春の風に波打っている。
プールサイドに腰掛けて、そうっと水面に足を付けるとやっぱりそれは冷たくて、思わず顔をしかめてしまうほどのものだった。
だけど隣に座るひとがひどくはしゃいで楽しそうで、「なァトシ、水冷たいなあ」なんてバカみたいに大口開けて笑うから、俺はそれを見ているだけで、なんだか心がぽかぽかとあったかくなっていくのだ。
「早くプール、入りたいなー」
「アンタはどうせ、女の水着目当てだろ」
「う……ッ、何を言ってンだトシ! 俺は純粋に水泳を楽しみたいと思うのだゾ!」
「あーはいはい、ほら、そろそろ授業始まるから、行くぞ」
「ちょっとォォ、ホントだよ、俺ホントのこと言ってるんだよ! なァトシ、水泳の授業始まったら、水中にらめっことか、どっちが長く潜ってられるか競争とか、しような!」
「あーはいはい、なんでも付き合ってやるから、早く、」
小学生のガキか、なんて苦笑しながら子どもまがいの遊びにすら気を良くする自分にもあきれてしまう。
水面から足を引き出して、立ち上がった俺は、後ろから、ぼそりとつぶやく声を耳にした。
「あーでもお妙さんの水着姿は見たいかも」
……ほら見やがれ。
俺に聞こえてないと思ってんだろうけど、バッチリ聞こえてるんだよ。だって俺の耳は、アンタの声を、聞き逃さない。
たとえそれが、聞きたくないことばでも。
さっきまでぽかぽかとしていて心地好かったのに、今は水に濡れた足がジンジンと痛んで仕方なかった。
俺の心はプールの底に取り残されたままぐるぐると渦を巻いて、そこから抜け出せなくなっていた。
20060412
title by OL