くちびるから魔法


 近藤の朝はテレビの占いを観ることからはじまる。結果によって一喜一憂する彼に、土方はくだらねえな、と一蹴した。
「んなモン当たるわけねーだろ」
「信じてねーの、トシくんは」
「あたりまえ。おれのほうがすげーぞ。魔法を使えるんだから」
 まほう、と近藤が素っ頓狂な声をあげた。自慢げに鼻を鳴らした土方は、どんなものか知りたいかと近藤に尋ねる。近藤は素直にうなずいた。
「じゃあ近藤さん、目ェ瞑って」
「どんな魔法だ?」
「ひみつ」
 ぎゅっと瞼を閉じている精悍な顔つきに見とれながら、土方は近藤ににじり寄った。心臓が早鐘を打っていた。畳についた手のひらはわずかに震えている。くちびる同士が触れ合う瞬間、おもむろに目の前の瞳が大きく開いたのを視界に入れ、息を飲みこんだ。
「トシ」
「……ッまだ、目ェ瞑って」
 驚いて、身を引く。だが、それよりも先に二の腕をつかまれた。
「実は俺も魔法を使えるんだ」
 にぃ、と近藤が笑う。至近距離だ。すべてを見透かされてしまいそうなほど。土方は全身が火照っていくのを感じた。
「なに言って」
 腕を振りほどこうともがくが、強固な力がそれを許さない。そうしているうちに、近藤のくちびるが自分のそれとぶつかった。
「俺を好きになる魔法」
 土方はくちびるをゆるめた。真似すんな。泣きそうになりながらどうにかつぶやく。
(これ以上好きになったらおれ死んじゃいそう)


20070204