壊したい記憶力装置
「今日、ふたりで飲みに行くって約束してたよな」
人間の記憶力などほとほと曖昧なものである。そうだと言い切られてしまえば、ああそうだったかなと自信をなくして己の意見を覆す。
土方が近藤に真顔で伝えているのは真っ赤な嘘。はなからそんな約束はしていないのだ。
だが、近藤は土方の言葉をすっかり信じてしまっているようで、キャバクラ帰りの赤ら顔をわずかに強張らせていた。充血した眼を、泳がせながら。
「ん、そうだっけ」
「フーン。近藤さんにとって俺なんて、そんなもんなんだな。よーくわかった」
「いやいやいや、そういうわけじゃないよ! ちがうちがう!」
「べつにいいけど」
「トシ!」
近藤のあわてふためく姿を横目で見ながら、土方の口許にはうっすら笑み。じゃア明日とあさって、あいてる? 不機嫌を装い軽い声色で誘ってみても、そのひたむきなまなざしは明らかだ。
返事はむろん、否とは言わせない。
20071126