剥がれた仮面にガムテープ


「じゃアあそこの居酒屋で待ち合わせしよう」と言うと近藤さんは、「なんでいっしょにいるのにわざわざ待ち合わせ?」と不思議そうに首をかしげるから俺は、なんてこのひとは鈍いンだ、おなじ建物に住んでるッてのもなかなかヨロシイ状況だが、それだと待ち合わせしてどこかへ遊びに行くという図、つまり本格的デートの気分が味わえないではないか、とむっつり黙りこんだまま反論する。
 本格的デート! そうつまり俺は近藤さんと本格的デートとやらがしたかったのである。俺って純情だから。お手々つないで歩きまわろうなんざトチ狂ったことはできねェってのはわかっているが、だからといって純情デートのあとホテルにしけこんで一発できたらなーなんて不埒なことも考えてねェの、俺って純情だから。
 納得いってないような近藤さんに、俺はしかしそれまでぐずぐずと考えていたことは言ってやらず、
「だからアンタは女にモテねェの」
 とだけ言ってぷいとそっぽを向いてやれば、近藤さんは「エッなんで!? そんなの関係あるの!?」と心底おどろいたふうに声をあげるから俺のなかでちょっとした悪戯心がムラムラ、いやちがう、ムクムクと芽生えてきたのだった。

 そうして約束の時間が近づいてきた。歯ブラシをくわえている近藤さんに、「じゃア先に行ってるから」と声をかけて屯所を出る。「なんでいっしょに行こうよ」という甘い誘惑を煙草のフィルターを噛みしめ必死に振り払いながら。畜生、いつもより苦ェ!
 ということで先に出た俺が先に約束の居酒屋に着くのかといったらそうではない。俺はその居酒屋には入らず、その向かい側にある茶店の柱の陰に身をひそめた。この場所から居酒屋の店内は丸見え、そして店にやって来た近藤さんの俺を捜すその表情が丸見えなのである。それを想像するだけで股間が熱くなってくるが、こんなところでおっ勃てている場合じゃないと視線をきっかり居酒屋に向ける。
 近藤さんがきょろきょろ俺を捜している姿を見たら、俺はすぐに近藤さんのもとへ向かうつもりだ。「悪ィ近藤さん、待った?」「なんだトシ、先に出たからもう着いていると思った」「心配、した?」「あたりまえだろう」「近藤さん……!」ギュー! なんてひと目を憚らない熱い抱擁を思い浮かべながら俺はニヤニヤ、ニヤニヤ。
 にやけている俺に気づいたのか、びくびくした表情でこっちをうかがう通行人に俺は見るなオーラを全身で発信。鬼の副長と呼ばれる土方十四郎さまをなめンじゃねーぞ。凄んでやれば、邪魔な人間どもはさーっと顔面を蒼白させてそそくさと去って行くので、視界は遮られずにまっすぐ居酒屋を見つめられる。
 五分経過。
 十分経過。
 さらに三十分が経過して、約束の時間がやってきた。もうすこしゆっくり来てもよかったか、とギンギンに疲れた目をこすりながら思ってみたが、きっと屯所にいてもそわそわして落ち着かなかったにちがいない。それにもうすぐ近藤さんがやって来るのだ。ついに待ちに待った近藤さんの俺を捜す表情を見れるのかと思うとふたたび俺の股間は熱くなってきたが、おっ勃つまえにそれは背後からかけられた一言で一瞬のうちに縮こまる。
「トシ、なにやってんだ」
 股間とともに寿命が三年縮んだ。あ、微妙。振りかえると近藤さんがいて、「あそこで待ち合わせじゃなかったか」と向かいの居酒屋を指差す。そうだけど、と口のなかでつぶやいて、だったらなんでアンタもここに、と逆に訊ねてみれば近藤さんはエッヘンと胸を張り、
「おまえがいるトコぐらい、わかるさ」
「あ、そう……」
 それって動物的嗅覚? なんか匂いで俺の居場所がわかっちゃったってこと? さっすがゴリラ並みの嗅覚! うん、ゴリラの鼻がイイのかどうか、知らねーけど。
 それとも愛の力ってヤツですか。おまえのことを愛しちゃってるから、どこにいてもわかるんだよ、みたいな。
 ……よし、後者と捉えよう。
 俺は近藤さんに抱きついて、そこでしばしの抱擁、熱い熱い抱擁。ああ、顔がゆるんでしまう。鬼の副長? なんだそれ。

 そうして俺たちは酒を飲んでお手々つないで街のなかをぷらぷらしてホテルにしけこんで一発! といういたって純情、本格的デートをくりひろげたのだった。
 なんていうのは冗談である。一発じゃなくて三発だ!


20071115