文机に顔を伏せて土方は居眠りしていた。
 溜まっていた書類の処理はひととおり終えたし、最近では厄介な事件も起こっていない。
 見上げた空は灰色で、夏らしい陽光は見当たらず、過ごしやすい気候であった。そのうえ至って平穏無事な日であったので、すっかり気が抜けてしまったのである。
 それから小一時間ほどまどろんでいた土方は、ふと目を覚ました。――だれかが室内に忍び込んでくる。気配に気がついて、神経を研ぎ澄ませる。そこで刀へ手が伸びなかったのは、その闖入者に対して警戒心がこれっぽっちも沸き起こらなかったためだ。
 やがて背後で立ち止まるのがわかって、息を詰めていた土方の肩にふわりとなにかがかけられる。土方はとうとう我慢できなくなって、目を開けてしまった。
 視界に映ったのは、己の顔を覗き込むようにしている近藤だった。わざわざ毛布をかけにきてくれたのだろう。上体を起こすと肩からずり落ちそうになる毛布を指先でつまんで、土方は近藤を見上げた。
「夜這いかと思った」
 その言葉を聞くなり、近藤が破顔する。
「これからするところ」
 ――どうやら目を覚ますタイミングを早まってしまったらしい。
 もう一度机に伏せた土方は、ぎゅっと目を瞑っておとなしく待ち受けることにした。

魔が差す一秒前


20070725