宵寝に嵐


 自室で煙草をふかしていた土方は、廊下から響いてくる足音を耳にして、急いで灰皿を引き寄せた。ぎゅっと煙草を押しつけて、敷いてあった布団にもぐりこんだときにちょうど呼びかけられた。
「トシ、起きてるか」
「……ん」
 土方は緩慢に起き上がりながら、障子を開けて入ってくる近藤を見上げた。瞼をこすりながら、どうしたのかと尋ねる。まるでいま起きたばかりであるという所作だ。
 近藤は枕を抱えていた。
「いっしょに寝てもいいか?」
「ああ」
 緩んでしまいそうになる顔をいっそう引き締めて、土方はうなずいた。
「来ると思った」
 先ほど土方は近藤とホラー映画を観たばかりである。怖がりの近藤だから、きっと今夜はひとりで眠れなくなるだろうと算段したのだ。
 ――だが。
 怖がりなのは近藤だけではない。土方は、自身ではけっして認めようとはしないが――手が震えていた。近藤を誘い入れるためにめくった布団を持つ指が、わずかばかり。
「……なんだよ」
 笑っている近藤に気づいて、土方は近藤を睨めつけた。決まりの悪さを取り繕うためである。「なんでもない」と言葉を濁されて、ますますふて腐れる。
「近藤さん」
 土方は近藤の枕を奪い取った。
「俺がいちばんこわいのはアンタだよ」
 どういう意味、と尋ねられたが答えは返さなかった。近藤に背を向けて、枕を抱いたまま半ば無理やり目をつむった。
「もう寝るのか」
「うるせェな」
「……寝るのにははやいと思うけど」
 そっと耳元に声を落とされて、土方はうるさいうるさいとつぶやきながら枕に紅潮した顔をうずめた。


20070702