懐古と邂逅
「――近藤さん、五年前の今日を憶えているか?」
土方は、そう寝ぼけ眼に問いかけた。
「五年前の……今日……?」
なんだっけ、と近藤のくちびるから不明瞭な声がこぼれ落ちた。まだ半分夢のなかにいるらしい。子どもみたいにごしごしと瞼をこすっている。
土方は眉根をひそめ、なんでもねェとぞんざいな口調で言い放った。ついでに顔もそむけてやる。
期待していたわけじゃない。ただ、ちょっと気になって、尋ねてみただけだ。それだけ。近藤が憶えていようがいまいが、なんの差し支えもないのである。
だが、そうは思っても、土方の表情は硬い。
「……え、なに、なんだっけ?」
土方の異変を察知したのか、近藤がむくりと起き上がる。そうして顔を覗き込んでくるので、土方はどうにもたまらなくなって、近藤に背を向けてしまった。
「……あの日、アンタに拾われなかったら俺はこうしてここにいなかった」
土方は懐古する。目を細め、思い出すのは当時の荒んだ己の姿である。
近藤と出会っていなければ、いまごろどうしていたのだろうかだなんて想像に難くない。きっと、荒れ果てた生活をつづけていたにちがいないのだ。
「アンタに感謝してるんだ」
なにを改まって、とそぞろな声が背中を押す。土方は振り向いた。口許に笑みをつくりながら。
「――なんて、な」
らしくねェことを言っちまッた。茶化す口振りだが頬はうっすら赤い。自身でも顔が熱いことには感づいていたので、さりげなくうつむこうとした。
それを遮ったのは、近藤の両の手のひらである。
「俺もだ」
ゆっくり近づいたくちびる同士がふれ合った。
「俺もおまえには感謝してるよ」
震える睫毛を、土方は視界から閉ざすよう瞼を落とした。
至福と不幸は紙一重だ。
このまま時が止まってしまえばいい。土方は苦しくなった。こんなに幸せな日が、以後あるだろうか。ない。もう、こんな幸せな日は訪れないのだと諦観するしかないのだ。
それでもよかった。
「好きだよトシ」
――あの日、己のすべてをこのひとに捧げたのだから。
あの眼差しに囚われた。
20070623