かぶき町三丁目裏通りの店・その2
その裏通り界隈には怪しげな店が並んでいた。
一見するとどこにでもあるような商店ばかりだが、内情はいわゆる闇商売――麻薬等の禁制物横流しや裏情報の取引がひっそりと行なわれているという。
おそらく真選組が立ち入り捜査を強行すれば、芋蔓式に検挙される店は少なくないはずだ。
だが、それにもかかわらず真選組副長土方から隊士に向けてなんの煽りも出されない。
裏事情をつかんだ部下が強制捜査を要請するも、土方は一向に首を縦に振らず「まだ放っておいてもいい」の一点張りだ。
「でも副長」
納得がいっていない表情で山崎が言う。彼は優秀な監察だ。
件の裏通りに赴き、張り込みをし、己の目で裏取引を見たのだ。
ゆえに、いまだ摘発の許可が得られていないのは不可解な点である。
最近裏通りで土方に似た姿を見かけたという隊士の声を聞いていた。さらにその場へ入り浸っているらしいということも。真偽のほどは不明だ。
――もしかすると、それが関係しているのだろうか。
山崎はそう思ったが、否定するようにかすかにかぶりを振る。上から許可が降りないだけなのかもしれない。
思いなおし、持っていた書類を土方へと差し出した。かの通りで遂行した監察の記録だ。
「これを見てくれたらわかるかと思いますが、俺はこの目で」
「山崎」
土方の冷ややかな視線が向けられる。
「俺はそんなことを調べろなんざ一言も言ってねえよな」
山崎は息を飲む。予想外の応えに狼狽えた。
土方は、硬直した山崎を尻目に背を向けた。山崎が何日も費やした報告書には一瞥もくれなかった。
「土方さん」
すべてを拒絶するかの如く黙り込んだ背中を前に、立ちすくんでいた山崎は背後から聞こえてきた声にようやく金縛りが解けたようにぎこちなく声の主を見た。
「なんかやましいことでもあるんですかィ」
場に割り込んできたのは沖田だ。背中を揺らし、土方がゆっくりと振り返る。
「なんだと」
「裏通りに関しては、俺が山崎に頼んだ」
「勝手なことを」
土方は舌打ちをした。煙草を取り出し一本口にくわえ、ライターを点けようとしたがなかなか点かない。苛立たしそうにふたたび舌打ちする。
「あそこを調べちゃいけない理由があるんですかィ。たとえばあんたが贔屓にしているような店が」
言葉を遮るかのように沖田へ向かってライターが飛んできた。あっさりかわした沖田は転がったライターを睨みつけ、苦々しく吐き出した。
「あのひとはもういない」
土方は耳を塞ぎ、苦しげに呻いた。
20070609