やわらかい足音
あぶない、と思った瞬間に腕をつかまれた。一歩を踏み出そうとした足は、地に着く前にもといた場所へと後退する。
バランスを崩し、よろけたからだが後ろにいた何かに寄りかかった。
目の前を車が通る。あとすこし遅かったら、と背筋に悪寒が走った。
土方は喉を震わせる。大きな手のひらでつかまれた腕が、びりびりと痺れているような感覚に陥っていた。
あぶなかった、と耳朶にふれるくらいの近い場所で安慮の声が呟かれる。
「おまえがぼんやりしているなんて、めずらしい」
何か考えごとでもしていたのかと尋ねられ、己の心の内が見透かされてしまうのではないかと唐突な――そしてあまりに馬鹿げた――危惧に襲われた土方は、瞬時に近藤の手を振り切った。
「別に、なんでもない」
歩き出すと同時に、後悔の念に押し潰されそうになる。
思わず邪険な対応をしてしまった自分に対して、おそらく近藤は、苦笑いを漏らしているにちがいない。
(考えごと、なんて)
常に脳内のほとんどを占めているのは、ただひとりのことだけだ。
(バカだバカだバカだ)
後ろから聞こえてくる足音は、常に一定の距離を保っている。あくまで、つかず離れずの間隔だ。
それがまるでいまの自分たちの内情を示しているようで、土方はもどかしく思いながら己の腕を強く握りしめた。
20070513