不埒でごめんね
「……ア」
吐息とともにこぼれた声は、幸い騒音にかき消されて周囲に届くことはなかった。
しかし用心するに越したことはなく、土方は奥歯を噛みしめて、ひやりと冷たい窓ガラスに額を押しつけた。
振動がじかにからだへ伝わってくる。びりびりと震える窓ガラスにならうように、土方の伏せられた睫毛もかすかに震えた。
列車はさほど混んではいない。またこの車両には己らの部下がまばらにいるだけだ。
隣の席には、近藤がいる。彼は、素っ気なく座席の反対側の外の風景を眺めているようにみえた。
それだから、ふたりの膝にかけられた上着一枚の下では、土方の欲情を煽ることに徹しているなどとは、よもや誰が見ても思うまい。
「近藤さん……」
掠れた声は切羽詰っている。土方の限界が近いことを示していた。
「イキそう」
土方の静かな哀願を悟った近藤が、土方へと視線を移しながら鷹揚とうなずいた。
黒地の布の下で、無骨な手のひらがそれまでのやさしい安寧とした愛撫から一転し、荒々しいそれへと挙措を変える。
その急激な変化に、慎ましく涙を流していた土方のペニスはいっそう温度を上げ、やがてこらえきれずに逐情した。
「……悪ィ」
土方は上気した頬を手背で乱暴に拭い、もう片方の手で上着を握りしめる。
「何が?」
だが、首をかしげる近藤は、土方の謝罪をものともしていないようだ。
「……汚した」
まるで自分のものを汚されてしまったかのように、土方は不機嫌そうにつぶやいた。
実際には近藤の隊服だ。土方の精液で内側がこびりついている。
それなのに近藤が、「いまさらだろう」と意に介したふうもなく笑うので、土方はどうしようもなく、身の置き場に困ってしまった。
20070429