空腹をおぼえて覗いた冷蔵庫のなかは空っぽで、これじゃあどうしようもねェなと舌打ちした背中に「たまには外食でもするか」と救いの声がかけられる。
夕陽に染まる街中に出てみれば、ごった返すひとの波にうんざりした。ちょうど夕餉の時間帯だ、どうせならもうすこしはやく出てくればよかったと毒を吐く。
苛立ちは、煙草に火をつける仕草にあらわれた。なかなか火を灯さないライターを相手にしているかたわらで、「やっぱり帰るか」という一言を落とされて、ようやく役目を思い出したライターを手放してしまいそうになる。
厭きられたのかと邪推して、煙草をくわえたままであるのを理由に問いただすこともしない。視線で促した。
すると彼は前方にあるスーパーマーケットを指差して、「あそこでなんか買って、はやく帰ろう」と先を歩きだす。その背中が言った。
「俺がおまえとふたりっきりになりてェの」
片手に買い物袋をぶら下げて、もう片方ではごつい手を繋ぎ合わせる。
ちいさく「俺も」と返した言葉は地平線に消えた夕焼け色に塗りつぶされていた。