実は俺、結婚することになったんだ。どうしても俺がイイって、そこまで言われちゃ断る理由なんざどこにもねーし。
プロポーズの言葉? もったいなくてテメェなんざに教えられるかッてんだ。
そう矢継ぎ早に告げる土方のかおはひどくにやけている。いい歳して頬を染めるだなんてどうかしているな。
坂田はしあわせそうにうっとりと目を細める土方を一歩引いたところで見ていた。
だいたいこっちは何も訊いてやしないのに、勝手に話を進められているのだ。坂田が辟易するのも当然のことである。
まったくつきあいきれないな。大きくため息をついてみせるが、土方がそれに気づいたようすはない。
あいかわらず嬉しそうだ。おそらくいまは何を言っても聞こえないにちがいない。もう一度ため息がこぼれた。これは無意識的なものである。
「……あ、そういや今日って」
坂田は空を見上げる。晴れやかな日だ。桜は満開、花見と称して浮かれる輩が増えるこの時期、土方みたいな人間が出てくるのもしょうがないことなのかもしれない。
ちょっとばかり達観したふうを装っていた坂田は、土方の浮かれた声色に我に返る。
「来たいっつってもテメェは式には呼ばねェからな」
「呼ばれても行かねェよ」
なんで俺がそんないかにも破天荒な式に行かなければならねェんだ。納得のいかない面持ちをした坂田は、いやちょっと待てよと考え込む。
ただ食いしてもいいのなら行ってやってもいいかもしれない。思わずかおをにやけさせながら、いやいやこんなやつらに感化させられてはいけないとかぶりを振る。
さて、彼の言ったあのお伽噺のような話ははたしてほんとうのことだったのだろうか。
パチンコ屋の前から立ち去りながら坂田はちょいと首をかしげて、まあどうでもいいかとすぐに考えなおす。
どこからどこまでが事実であるのか、坂田には知るよしもないし、また興味のないことであったので。
坂田はすでに次なるパチンコ屋への闘志がみなぎっている。