眼球忌憚 1
朝起きると目が見えなくなっていた。確かに瞼は開いているはずなのに、視界は暗闇のまま何も映さない。
目をこすってみても何もかわりはなかった。視力は失われたままである。
土方はとたんに何もかもがめんどうくさくなって、二度寝をしてしまうことに決めた。
確か今日は、昨日までに溜まってしまった雑務を処理しようと思っていたはずだが、どうでもよくなったのだ。
土方は目を瞑ってちいさく吐息した。目を瞑っても瞑らなくても何も見えないことにかわりはないけれど、寝てしまえばこの状況から抜け出せるのではないかと思案した。
そんな暗鬱としたなかで土方は廊下の先から駆けて来る足音を聞いた。障子の外から声がする。副長、起きてますか。
遠慮がちな声は山崎のものだった。ああ、起きている、と土方はあまり判然としない口調で返した。もうすこしで眠ってしまいそうだった。
どうしたんですかと重ねて問いただされたので、今日は休むと苛立たしげに言ってやった。
その声色で土方の機嫌が低下の一途を辿っているのを悟ったのか、山崎ははあそうですか、と口のなかでつぶやいて部屋の前から去ろうとする。
土方はあわてて彼を引き止めるように、近藤さんは、と口を開いて逆に問うた。え……? 山崎は怪訝に満ちた声音をもらしたあと、局長は出張中ですけど、と狼狽えたふうに答える。
それを聞いた土方は、なるほどあのひとがいないからかとようやく溜飲を下げて、わかったさっさと行けと山崎に冷たく言い放った。
20070317