「……まだ寝ないの」
 つぶやきを落としたのは、無意識だった。
 それだから、机に向かっていた近藤が振り向きざまに「え?」と首をかしげたのを見て、土方はようやくひとりごちていたことに気づいたのだった。
「すぐ、寝るよ」
 苦笑混じりに返されて、渋面をにじませる。
「さっきもそう言ってたじゃねえか」
 もう数度、その言葉を聞いていた。つまりそれと同じだけ、土方が同じ質問を繰り返しているというわけにもなる。
 自身の発言でそれに気づかされて、わずかに頬が熱くなった。
「トシ、おまえは先に寝てていいぞ」
 土方はくちびるをゆがめた。
 この台詞は時と場合によっては蠱惑的なものに聞こえるかもしれないが、実際近藤は土方と同衾しているわけではないので、土方がいつ何時に寝ようが近藤には関係ない。
 第一、明日土方は非番の日だ。遅くまで起きていようが、こんな夜中にまで期限の差し迫った書類と向き合っているような局長を見守っていようが、翌日に差し支えはないのだし。
「近藤さん」
 土方は、机に向きなおってしまった近藤ににじり寄った。うん、と広い背中が返事をする。それがますますおもしろくなくて、どうにかして彼の気を引こうと、半ば躍起になって考える。
「……俺、好きなひとがいるんだ」
 やがて口走った突拍子のない台詞は、くしくも近藤を振り向かせる効果を得た。と同時に、土方自身も愕然としていた。こんなことを言うつもりはなかったのに。
「なんだって?」
 よく聞き取れなかったのか、近藤が首をひねる。ここで「なんでもない」と誤魔化すことはできた。
 だが、土方は腹をくくった。
「俺が好きなやつ、すげー鈍感なの。どうしたらいいかな」
 突然の告白に、戸惑ったふうに近藤が眉根を寄せた。
「トシの、片思い?」
「そう」
「トシが?」
「そうだって」
 鈍感、以前に問題は山積みにもあるのだが、それをいちいち並べていってはキリがない。――というよりも、立ちはだかる大きな壁を見上げるのにすっかり辟易していたこともあるのだけれど。
 近藤は、ううんと一度唸り声をあげて、土方の目をまっすぐと見据えた。
「一発キスでもしてやったら」
 そうしたら、いくら鈍感な奴でも気づくだろ。トシくんの虜になっちゃうんじゃねーかな。
 そう苦笑する近藤の、くちびるを見つめながら土方はさらに近藤に詰め寄った。
「……ほんとう」
「うん?」
「ほんとうだな、近藤さん」
 今さら嘘でしたなんて言うんじゃねえぞ俺アンタのことばにはすげー素直に信じちまうンだからな覚悟してろよ、まくし立てながら息がかかるほどに近づいて、


その距離わずか一ミリにて



「俺がアンタの虜だよ」


20070205