近藤と、目が合わない。
異変にはすぐに気がついた。何年彼のそばにいると思っている。
近藤はひとの目をまっすぐ見つめて話す人間だ。ゆえに、不自然に視線を斜め上にやって、さらにわずかに顔を強張らせている姿を目の当たりにすれば、否応なしに違和感に気づかされるのだ。
土方は問いただした。具合悪いのか。なんかあったのか。また女にふられたのか。
――答えはどれも、否だ。なんでもないと、とても「なんでもない」ふうには見えない様相で、笑顔を作ってみせる。だが近藤は、自分以外のほかの人間には常とかわらない対応をしているのだ。
もしかして、と土方は思い当たる。今朝見た夢を、近藤に知られてしまったのではないだろうか。だから気味悪がられて、避けられているのではないだろうか。
己の夢を他人が覗けるわけがないのだが、疑心暗鬼に陥った土方は混乱に窮していた。
やにわに震えだす指先に気づいたのか、近藤が心持ち心配したふうに顔を覗きこんでくる。
「どうした、トシ」
「ごめん、近藤さん」
謝るほかなかった。ごめんごめん、きもちわるくて、ごめんなさい。謝罪の言葉は止まらない。
近藤が、驚きに目を見開いた。
「なにが」
「だって、おれのせいだろ」
「え?」
「おれを避けてるの」
近藤を上目遣いで見やれば、図星をつかれたような表情が視界に入る。やっぱり、と土方はぼんやり思う。
「……まあ、そうなのかも、しれない」
曖昧につぶやいた近藤は、意を決したように口を開いた。思わず身構えた土方だったが、近藤が明らかにした事実は土方が危惧した類のものではなかった。
「おまえの夢を見たんだ」
「おれ、の?」
心臓が跳ね上がる。
あまりに恋焦がれると、相手の夢に出てしまうことがあるという。つまり近藤の見た夢とはそれにちがいない。
自分があまりにも近藤を欲していて、いつもいつも、近藤のことを考えているから、ついには近藤の夢のなかにまで追いかけていってしまったのだ。
自分が見ている夢とは、また種類がちがうのだろうけれど。
「……どんな?」
怖い。だが、好奇心に勝るものはない。
「内緒」
「なんで」
「……ひかれるから」
「ひく? おれが?」
ますます、思い募る。
「絶対言わない」
「言えよ、気になる」
「言えねえって」
「近藤さん」
近藤の目に捕らえられる。それは夢のなかで自分を追い詰め逐情に導いた男のそれと酷似していた。
「おまえを抱く夢」
近藤と情事を重ねる夢を見た朝は、己の手で性欲処理をしなければならない。彼の目を、手を、感触を思い出し、自慰にふけるのだ。
熱い身体が冷めるにつれ、罪悪感に苛まれる。汚れた手をぞんざいに拭いて、冷たい水で洗い流してしまおうと部屋を出たとたん、近藤と顔を合わせたときもあった。おはよう、と明朗に笑う近藤の顔を、とてもじゃないが直視できなかった。
(ゆめみたいだ)
まだ夢の世界にいるのだろうか。現実と、虚像の世界の境目を失った。
(――ゆめなら、覚めるな)
たとえばくちびるを触れ合わせた瞬間、辛辣な現実へと舞い戻ってしまうのか。手の届かない背中をただ見つめているだけの世界がいっそ、自分には似つかわしいのか。
だが、浅ましい誘惑には勝てなかった。何よりも恋焦がれ、渇望していたものが目の前にあるのだから。
「おれもアンタに抱かれる夢を見た」
くちびるが触れた瞬間、ぶざまに泣いてしまうのもいいかもしれない。
もうどうなってしまおうがかまわない。
何もかもわからなくなってしまうくらい、とにかくつよく抱いてほしかった。