砂塵に紛れた愛言葉
「こんなに好きなのにどーして伝わんないのかな」
投げやりに吐き出した言葉に、ぴくりと肩を揺らして振り向いた近藤さんのかおは、ひどく驚いていたように見えた。
「なんだって?」
「……ってここに書いてあった」
広げていた文庫本を掲げて、左右に振って見せる。ああ、本の話。近藤さんがほっとしたように笑う。
高校生にもなって読書感想文という課題を命じられ、仕方なく図書室に行って一番先に目に飛び込んできた本を手にとった。
それがあまりにつまらなくて、飽きるのは時間の問題だった。
そうしてふと無意識につぶやいたことばはもちろん、文章内にあるわけがないものだった。
「そろそろ帰るか」
おおきなあくびをしながら、近藤さんが立ち上がった。窓の外はとっぷりと日が暮れている。
読書に乗ずることなく分厚い本を枕にしてすっかり惰眠を貪っていた近藤さんの足元は、すこしふらついていた。
「近藤さん、ヨダレ垂れてる」
「エッ、マジで」
寝惚け眼で口許をぬぐう姿に、思わず笑ってしまう。
アンタ何しに来たんだよ。軽口を言い飛ばそうとしたおれは、思いがけなく強いまなざしを向けられているのに気がついて、口をつぐんだ。
「ちゃんとわかってるつもりだけどなァ」
それまでの真摯なかおとは一転、近藤さんはニカッと笑って机に置かれた本を指先で弾いた。
「って、ここに書いてあった」
「……は」
近藤さんは立ち尽くすおれを置いてさっさと図書室から出て行ってしまった。深く息を吐き出しながら、どさりと椅子に舞い戻る。
なんだかからだに力が入らない。おれはぼんやり、置き去りにされた本に目をやって、かおが火照っていくのを感じた。
「なァ近藤さん、どこの世界にそんなことばが載ってる国語辞典なんてあるんだよ」
20070103