石榴を食む


 あ、と声をあげた男がじっとこちらを見つめてくる。それ以上何も言わずに凝視、凝視、凝視。 なんだよ近藤さん、とまっすぐな視線に耐え切れなくなった土方はついに根を上げた。その背中にはうっすら汗をかいている。
「くちびる、切れてる」
 言うが早いが節くれ立った指が伸びてきて、おとがいをつかむ。ぐい、と上を向かされた顔の距離はおよそ15センチ。思わず息を飲む。
(近い、近い近い近い!)
 内心では取り乱し、しかしそれを表に出さぬよう平静を装って土方はそっと近藤の手をどかした。
「乾燥してるからな」
 いささか乾き気味の舌でぺろりとくちびるを舐める。わずかな痛みと鉄の味がした。
「リップクリームとかないのか」
「ねェよ。だからアンタがくちびる乾く前に舐めてよ」
 ふ、とくちびるを弧に描いて笑ってみせた。冗談だよとすくめた肩口を強くつかまれふたたび息を飲み込む。 わかった、とことさら真剣な顔つきをした近藤が、先ほどの15センチの距離をより詰めてきた。
(……それ、舐めるって言わねえだろ)
 そんなやさしいものではない。食われてしまいそうな、キス。まともに息すらできない接吻けに土方の眩暈は止まらない。
(ああ、もっとひどくなりそ)

20061213