猟奇的/ふたりの死/愛憎劇


自白する男の話


 あのひと、最近てんで女にモテないって嘆いてたんだよな。ついには女なら誰でもイイって言い出す始末だ。 なんだよ、アンタを好きな男だったら近くにいるってェのに。男ってだけで、あのひとを好きになる資格はねェってのかよ。 悔しくなったから、俺ァ決意したわけよ。だったら女になってやろうじゃねェかって。 まさか本気でなろうって思ったわけじゃねえぞ。ただ口に紅を引いてカツラかぶって、ちょっと女物の服を着ただけだ。 それであのひとの前に出てやった。まァすぐにバレるだろうなとは思ってたけど、とんでもねェ、あのひと、まーったく気づかねェでやんの!  は! 笑っちまうよな、何年も近くにいて、俺のことすら見てくれてなかったんだ。 あのひとは、女に化けてる俺に笑いかけて、それはもうやさしく笑いかけて、デートの誘いを吹っかけてきやがった。 もちろん乗ってやったさ。おしとやかに頷くと、あのひとはすげー嬉しそうに、「そうですか、それじゃあ行きましょうか」って顔を赤らめて笑った。 なるべくしゃべらないように、俺はそのデートやらに臨んでやったよ。 デートッつっても、牛丼屋で夕飯食って、それから居酒屋に行って酒呑んだだけだぜ。ッたく、だァから女にモテねえんだよな。 あれで女が満足するかァ? あのひとがモテねェ理由、よォくわかった。そうだよ、あのひとの良さがわかってンのは、俺だけでイイんだよ俺だけなんだよ……っ!  ……ん、ああ、すまねェな。そんで、酒呑んでしばらくして、そろそろ店を出ようかっていう雰囲気になった。 このままホテルに連れ込まれんじゃねえのかって、俺は邪推したよ。それならそれで、良かった。 部屋を真っ暗にして、俺が男だってバレないようにして、あとに引けねえってくらいまであのひとを追い込んでから、バラしてやろうかと思った。 責任とれ、って喚いてやっても良かった。でも俺は、俺はただ、あのひとに触って欲しかったんだ。触れて欲しかっただけだ。 そろそろ帰るか、ってあのひとは店を出て俺の前を歩く。このままホテルに行くんだろうかって思いながらついていったら、向かう場所が屯所なんだよな、どう考えても。 そっちの方面は屯所しかねえ。ホテルとか、繁華街みたいな色沙汰なモンはねえはずだ。 このひと、まさか自分の部屋に連れて行く気かよ。それでも良かったけど、俺はあのひとに訊いたんだ。どこに行くの、って。 そしたらあのひとな、こう言ったんだよ。「何言ってんだ、帰る場所っていったら、ひとつしかないだろ」って。 俺のほうに手ェ伸ばして、いつもみたいに、俺の大好きな笑顔を浮かべて、「帰るぞ、トシ」って。 俺ァ泣きたくなったよ。泣きたくなった。あのひと最初から、わかってたんだ。俺ってこと、気づいてたんだよ、俺がバカなことしてるって。 なんでこんなことしてるんだとか、あのひとは俺に訊かなかった。ただ黙って、俺の茶番につき合ってくれてたんだ。 俺は、差し出された手をとった。あったかかったよ、あのひとの手は。すごく、しあわせだった。俺はしあわせだったんだ。人生で、これ以上ないってくれェに。 もう、このまんま終わっちまえって、そう思った。思った瞬間に、このひとを殺そうと思った。殺さなきゃなんねえって思った。 あのひとを斬るのに、なんの躊躇もなかったぜ。あのひとの腰から刀奪うのも造作ねえことだ。あのひと、身内にはてんで甘いからな。 隙だらけだった。実力あるくせに、ああいうとこが、甘いんだよなって、いつも言ってたんだけどなァ。 俺は奪った刀をすべらせてあのひとを斬ったよ。左肩から、斜め下に一直線。肉を斬る感触、いまでもはっきり手のひらに焼きついてるぜ。一生忘れらんねえんだろうな。 あのひとが地面に落ちていくのを見ながら、真っ赤な血がからだじゅうにべったりつくのを感じた。 あのひとの血だよ。くちびるを舐めたら、鉄の味がした。ああ、これがアンタの味か、って冷静に思った。いま考えりゃ、ぜんぜん冷静じゃなかっただろうけどな。ふ、あたりめーか。
 後悔? してねェよ。あ、でも一個だけあるかな。せめて最期くらい、自分の気持ちをあのひとに伝えれば良かったって思うぜ。 あのひとが最期に言った言葉、なんだと思う? ふふ、俺の名前。俺ァ嬉しかったよ。すげー、ぞくぞくした。 これでこのひとは俺のモンだって。俺だけのモンだって、とうとう俺のモンになったって、すげーしあわせだった。 ハ、ハハ、ハハ、ハハハハハハ!
 ……ああ、俺が憶えてンのは、それだけだ。なァ、あのひとに会いたいな。どこにいんの? 会わせてくれる? さいごに近藤さんの顔、見てェな。 うん、その前に、ちょっくら小便しに行ってもいいかな。たくさんしゃべって、疲れたよ。どこ、便所。はやく連れてけ。



[捜査書]
 被疑者は三時間近くかけて自供したのち、便所に行きたいと申し出た。見張りを一名つけて同三階の建物右端にある便所へ向かう。 十五分経っても出てこないことを不審に思った見張りが個室の戸を叩くが、返事は皆無。戸をこじ開けると、中で被疑者が首を吊っているのを発見。 着物の帯を電灯に括りつけ自ら命を絶った模様。口内には服装検査では見つからなかった四センチの剃刀を発見。舌を切り落としている。
 見張りの証言:「何か落ちる音がしたような気がしたが、特に気にも留めなかった」おそらく剃刀が床に落ちた音と思われる。(*以後注視すべき課題とする:一.服装検査の強化 二.見張りの強化)

<事件の概要>
 凶器:現場に落ちていた刀からは、被害者である近藤勲と被疑者である土方十四郎の両人の指紋が検出された。 現場検証の上、争った形跡は一切見受けられなかったことから、自白による殺害方法とほぼ一致すると考えられる。
 犯行の動機:被疑者の自白により、愛する男がほかの者の手に渡るのならば自分の手で殺したほうがましだと考えたのだろうと推断する。被害者は事件翌日に見合いを控えていた。


 追記。被疑者が自殺した便所の個室の内扉に、剃刀で削られたと思われる傷跡を発見。 被疑者が舌を切断するのに使用した剃刀から少量の木の削りかすが確認できたことから、被疑者が最期に何かを書き残そうとして削ったものだと断定。 はじめの八文字は乱れており判読不可能。以下参照。『××××××××だったよ近藤さん近藤さん近どうさんこんどうさんこんどうさ』。
 また被害者の部屋から日記と思われる自筆物を証拠物件として押収。同性に恋した苦悩が綴られている。 相手の名前は書かれていないが、その内容から被疑者である土方十四郎だと断定。(日記は真選組の元へ返却済/局長・副長を失った真選組は組織解体の決定が下された。詳細不明)
 被疑者の自白の信憑性が高いことから、よって○月×日、この事件のすべての捜査の終了を宣言することをここに記す。以後この事件は闇に葬られることになるだろう。(幕府からの×××××



終幕


20061210