美食家に捧ぐ
教室に入るなりある人物を視界に留めた土方は、とたん口許を緩ませて彼の席へと急ぎ足で向かった。
机に伏せている近藤に声をかけると、ゆっくりと近藤が顔をあげた。
なんだか覇気のないその様子に土方はつっと眉をひそめた。
いつでもあれば、豪快に笑って自分を迎え入れてくれるだろうに、近藤はうっすらと笑んだだけだった。
「どうしたんだよ、近藤さん」
どっか具合でも悪いのかと、心配をする土方だったがそれは無用だったらしい。
「今日ギリギリに家飛び出してきたから、朝飯抜きなんだよなァ」
だから腹へっちまって、と近藤は大きくため息をつく。
なんだそんなことかと肩をすくめた土方はしかし、何か妙案――というよりも悪戯といったほうが正しいだろうか――を思いついたのかにんまりと笑顔を浮かべる。
「いいモンやるから、こっちついて来いよ」
手招いて、授業前でざわつく教室を出る。近藤がふらふらとついてくるのを確認しながら、男子トイレの戸を押した。
「トシィ、食いモンがトイレにあんのか?」
「こっちだ、近藤さん」
首をかしげる近藤の腕を取り、ずんずんと一番奥の個室に近藤を引っ張っていく。幸い他に生徒はいない。
「……えーっと、トシ、くん?」
ようやく何かおかしいことに気づいたのか、近藤が顔を引きつらせるが土方はそんなことお構いなしで個室の扉を閉めた。
男ふたりが入るには窮屈なスペースだったので、自然と身を寄り添わせる体勢にならなければならない。
「……トシ」
ちょうどチャイムが鳴り響く。個室のなかはいささか息苦しいけれど。
「アンタになら、どんな食べ方されてもかまわねェよ」
ただし残すんじゃねェよ。近藤の指に自分のそれを絡ませた土方は、わざとらしく唇をひと舐めしてみせた。
さアどこからでもどォぞ。
20061125