いい天気だなァといささか呑気な声がちょうど障子を開けたときに耳に入ってきた。土方がそちらに目をやれば、縁側に腰を下ろす近藤の姿があった。 近藤は障子の開く音で土方の気配に気づいたのか、こちらを振り向いておおトシか、とひとの好い笑みを浮かべる。 隣に座っていいかと尋ねると、そんなことをいちいち訊くなと手招きをされ、土方は赴くままに近藤の隣に座りこんだ。
 近藤が言うとおり、真っ青な空は見ているだけで爽快で、薄くかかった白い雲とのコントラストは絶妙だ。 無意識に袂に手をやり、煙草を取り出した土方だったがかたわらから伸びてきた手により喫煙を阻止される。 せっかくいい空気なんだからと渋面を作る近藤に、わかったよと肩をすくめて特に反論もせずに諦める。
 しかし口寂しいのはどうにも我慢ならず、近藤の裾を引っ張り上目遣いの眼差しを向けた。 彼の名前をちいさく呼べば了解してくれたようで、にわかに心地好い重みを身体に受ける。 倒れた際に板敷きから煙草が落ちてしまったが、それを気にかける余裕などとうになくなった。

 身体が重い。シーツに埋もれていってしまいそうだ。 土方は布団の上にうつぶせになり、まだ冷めやらぬ体内の熱を持て余しながら枕に顔を押しつけた。 まだ彼のにおいが色濃く残っている。その本人は先ほどふらりと部屋から出て行ってしまった。 厠にでも行ったのだろうか。はやく戻ってきてくれればいいのに。 ぼんやりと眠気でかすんだ頭で思っていると、おもむろに襖が開いて近藤が帰ってくる。
「忘れてただろう」
 ほらと差し出された煙草を土方はジッと見つめる。ここでいらないと言ったら、はたして彼はどんな反応をするだろうか。 思いながら手を伸ばし、先刻放したそれをふたたび手のひらの中に戻す。
「ありがとう」
 先刻まで無性に望んでいたそれを、しかし拳の中で握りつぶした。


それをひとは恋という


20061114