ああ、腰が痛いなァ。
部屋に入るなりそうぼやいて座布団に腰を下ろす近藤に、それは色恋沙汰の類ですかとそれまでジッと再放送のドラマを見ていた沖田が揶揄い半分の声で訊く。
刀の手入れをしていた土方は思わずその手を止めて顔を上げた。はは、まさか。さっき厠から出たところでおもいっきりコケたんだ。
近藤さん……。沖田は憐憫の混じった声のあとにおおげさにかぶりを振ってまァそんなモンですよねとからからと笑った。
それにかぶせて近藤も笑いだしたので土方ははっと我に返りまた刀の手入れをはじめた。幸いふたりが土方の動揺に気づいた様子はなかった。
しばらくして笑いがおさまり会話もなくなって、ただドラマの中のへたくそな演技をする女優の声だけが聞こえていた部屋にもう一度変調が訪れた。
「でも」
近藤が静かな声で言い、土方と沖田が顔を上げたのは同時のことだった。
「そんなことになったら一番におまえたちに言うよ」
沖田が楽しみに待ってますぜと笑うのに対し土方はきっと眉をしかめて、何事もなかったかのように刀を撫でた。
空気の如く
20061113