――さて、どうしようか。まさか沈黙が訪れるとは思ってもみなかった。計算外。
ダメだ俺、このひとのことになるとてんで頭が回らなくなッちまう。
近藤さんはきょとんとして内心ではいきなり何言ってンだろうとか訝しんでるんだろうけど(まさか言葉の意味もわかっちゃねーのかもしんねえ。このひとは大概にぶいんだ)、実はこれ、さらっと流してほしかった。
「あーもうなんでもない」
言いながら、でもこれも本心じゃねえな、なんて思い知ったりして。
だいたいアレが悪いんだ、ほら、さっき通った道のど真ん中でいちゃついてたカップル。
「愛してるよ」「わたしも愛してるわ」っておいおいそこは公道だろーがテメェらの愛の巣じゃねェんだよ!
イラつきながらもふと一緒にいるアンタの反応が気になって隣を窺ってみれば、「おお、仲が良いなァ」ってそれがアンタの感想ですか。
視線を右にやってちょこっと下を見てくれたら、アンタのことがだァいすきな男が自分のことを見てくれるのを今か今かと待ってるンだけどね。
つまりアレだよ、ただの悪ふざけ。ちょっとアンタをからかおうとしてみただけ。それにしては本心たっぷりなのがバレバレだから困らせてんのか。ん、それはヤバイかも。
さて、俺が爆弾発言してから早十分が経とうとしている。――うそ。現実はほんの数十秒、だけど俺の体内時計ではもう結構な時間が経ってます。
こんな場面での焦らしはいらねェよ。
「はやく帰ろう、近藤さん」
気づけばだいぶ日が落ちてきている。予定よりも遅い帰還に道草食ってきやがって! なんて奴らにたかられても腹が立つ。
「近藤さん?」
返事がないので顔を覗き込めば、その顔はなんだかちょっとだけ赤く見えるのは俺の気のせい、だろうか。
ああそれとも夕陽か、燃えてるみたいに真っ赤な空。それが原因。
突然腕を引っ張られてあっという間にアンタの腕のなかにいてぎゅって抱きしめられて心臓が早鐘打ってるのを自覚して俺の顔もきっと真っ赤になってんだろうなとか思っちまうのも、全部夕陽にのまれてく。
「……まったく、突然なにを言うのかと思ったら」
「わァるかったな。どっかの誰かさんがあまりに鈍くてちょっとイラってきた」
「え、俺?」
「さァ?」
「……」
「つか、いい加減、離せ」
「うん」
「うんじゃなくて。それに俺、抱きしめろなんて言ってねーぞ」
「でも俺、恥ずかしいし。さっきのふたりみたいに言うのは、むり、かも」
「はあ?」
恥ずかしかったら道の真ん中でこんなことできないだろうが。アンタ今自分がしてる行動に気づいてる? あいしてるってうそでもいいからさらっと一言吐き出しちまえばいいものを、なんでこんな強く、抱いてるのかな。
「……今はこれで我慢な」
ばかやろう、がまん、なんてできっこねーよ。俺もう、むりです、なァ、近藤さん。