群青82パーセント
絵の具の青をぶちまけたような、一面の青空が広がっている。
次の授業は体育、種目は水泳だ。
ざわめきと共に更衣室へと向かうクラスメイトをよそに、土方はぼんやりと頬杖をつきながら窓の外を見やっていた。
「トシ、おまえ何してンだよ。着替えに行かないのか?」
声をかけられ、視線を教室の中へと戻す。傍らには近藤が、水着の入った袋を抱えて立っていた。
「ああ、ちょっとな」
そう曖昧に頷いてみせると、近藤は「風邪でもひいたのか?」と首をかしげた。
「もったいないなあ、こんなにいい天気なのに」
「ああ、まったく本当に」
深く頷いた土方は、ガラスで隔てられた青空をもう一度見上げた。照りつく太陽が眩しい。
この暑さの下、プールに行けばすぐに日焼けしてしまうにちがいない。
本より色素の濃いほうである近藤の、さらに日焼けした姿を想像して、土方はほんの少しうらやましく思った。
土方はあまり肌が強くない。長時間陽光にさらされていれば、真っ赤になることは必須だった。
むろんそれは、土方が本日の水泳の授業に欠席することとは無関係だ。土方はそんなことにかまけるほど矮小ではない。
「……別に俺はいいんだぜ」
「うん?」
更衣室へと行きかけた足を、近藤は止めて土方を振り返る。土方はすかさず立ち上がり、近藤の下へと歩み寄った。
彼の腕からスポーツバッグを奪い、床に落としてしまう。
訝しげな表情を浮かべる近藤をわざと上目遣いに見やって、その首筋に唇を寄せた。
吸いつきながら、角張った喉仏が音をたてて上下するのを見た。
上擦った声で名前を呼ばれて、土方はゆっくりと近藤から一歩離れた。
「アンタに、たっぷり愛されたって証拠。見せつけンのも悪くはねえかもな」
第二釦まで開け放たれたカッターシャツの胸元を指先で叩き、昨夜の密事を示唆すると、さっと近藤の顔色が変わった。
今しがたの土方の行為から、思い当たる節があったのだろう。その素直な反応に、土方は肩を揺らしてちいさく笑った。
「アンタもサボったほうがいいんじゃねえの」
「エッ。……トシくん、それは一体」
「さあな」
土方が恍けてみせると、近藤は慌ててシャツをめくりはじめた。
あらわになった褐色の胸筋に目を眇めた土方は、「冗談だよ」と追い討ちをかけた。
すっかり騙された風情の近藤の、いささか呆れたふうな視線を浴びて、ことさらゆっくり唇を開く。
「痕、ついてんのは背中だから。アンタには見えっこねえだろ」
群青色の空とは似つかわしくない笑みを浮かべながら。
20060810