夏と祭囃子とその指先と


 賑やかな声と太鼓の音に土方は目を覚ました。 ぼんやりと微睡のなか、そういえば今日は近所で夏祭りが開催されるのだということを思い出す。
 いつの間に眠ってしまっていたのだろうか。 畳に俯せていた身体をゆっくり起こすと、閉められた障子の向こう、うっすらと人影が見えた。 四つん這いになってそちらへ向かい、おもむろに障子を開けると縁側に近藤が座り込んでいた。 障子の開ける音に近藤が振り向いて、「起きたか、トシ」と破顔した。
「近藤さん、おれ」
 以前より夏祭り楽しみだなァと浮かれていた近藤が、いまその喧騒のなかにいないのはおそらく、自分がこうして眠ってしまっていたせいだろう。 土方は甚く恐縮して声調を落とし、ごめんとつぶやいた。近藤はやはり笑ったままで、ふいに手のひらを伸ばしてきた。
「トシ、畳の痕がついてる」
 頬をやさしく節くれ立った指先が伝う。 その感触に神経をすべて奪われてしまいそうになりながら、土方は「わざとだ、わざと」と唇をとがらせて強がって見せた。 近藤はますます笑って、そうかァ、と鷹揚にうなずいた。
「それじゃあ、コレが消えたら行こうか」
「……うん」
 うなずきながら土方は、近藤には悪いけれどすぐには消えてほしくはないと思った。ただこの時間が愛しかった。
 するりと近藤の手のひらから抜け出した土方は、先刻までと同じように畳の上に俯せに寝そべった。
「あっ、こらトシ!」
 慌てたふうな近藤の声に、「近藤さんも寝ればいいのに」とちいさく笑った。

20060730