かぶき町三丁目裏通りの店


 一見するとなんの変哲もない店だ。がらくたばかりが並んだ骨董品屋のようなその店に、土方はもう長い間足しげく通っていた。 この店に通う目的は無論、わけのわからないような壷だとか古びた輝きを持つ皿に魅入られたからではない。
 仕事で時間がとれず、一週間ぶりに訪れた土方の表情はいささか切羽詰っており、すっかり顔見知りになった店主は土方の顔を見るなり苦笑をこぼした。 そうして緩慢な動作でカウンターの引き出しから鍵を取り出し、背後にある木製のドアノブに手をかけた。
「……常連客がいるってのは、店にとっちゃー悪いことではないんだが、」
「うるせえ。さっさとしろ」
 忠告とばかりにひそめられた店主の掠れた声を土方は一蹴する。 肩をすくめる店主の姿を目の端で捉えながらも、土方は開け放たれたドアの内側へするりと身体を滑らせた。
 ひんやりとするその部屋に初めて足を踏み入れたとき、その異様さに圧倒されてしばらく息をするのも忘れたほどだった。 部屋をぐるりと囲むようにして並んでいるのは、カプセル状の大きな「人間入れ」だった。 透明なガラスから見えるのはいまにも動きだしそうな人間の姿である。正しくは、「人間の形をした」精巧なロボットだが。
 並んだ生体には目もくれず、土方は慣れた足取りで目的のカプセルの前へ急いだ。
「久しぶり、近藤さん」
 若干息を切らせながら、喜悦の色を隠さずに話しかける。 もちろん返事はない。後ろからついてきた店主を「はやくしろ」との意味を込めてひと睨みする。 店主は先刻のように肩をすくめ、ちゃちな鍵束のなかからひとつの鍵を選び、カプセルに付いた取っ手部分の鍵穴に差し込んだ。
「――あんたみたいなひとは、こういうモンと出会っちゃいけなかったんだよな」
 店主のつぶやきはもはや土方の耳には届いていなかった。カプセルの開く、低い電子音が部屋を支配する。
「近藤さん」
 近藤さん近藤さん。久しぶりだから話すことたくさんあるンだぜなあ近藤さんキスして近藤さん。近藤さん俺もう……。

20060729