☆☆☆★(悲しみスタア)


 屯所に帰って来た近藤が腕に抱えていたものは、彼の身長を優に越すほどの高く立派な笹だった。 「よォしみんなー、なんでもいいから願い事書いて吊るしとけよー」 近藤の一言で、わあっと歓声を上げて隊士たちが笹を取り囲む。それはいっそ、異様な光景だ。  ――いい大人が、いい反応してやがる。 それまで静観していた土方は、ひと仕事を終えたような充足感に満ち溢れた顔をして縁側に座り込む近藤の元へと歩み寄った。 「どこ行ってンのかと思ってたら、あれ、手に入れてたのか」 「おお、ちょっと山までな」 「山ァ!?」 「うん」 一体どこまで本気なのだろうか。不審げに見やる土方の視線を物ともせず、近藤は豪快に笑う。 「ほらトシ、おまえも書け」 そう言って近藤が差し出してきたのは、長方形の紙切れだった。 彼自身で作ったのだろう、わずかに切り口がいびつに曲がっている。 意外に律儀なひとだと、土方はしみじみ思う。 「俺はいいよ」 「あっ、おまえバカにしてるだろう」 「そんなんじゃねえよ」 先刻、甘いものに群がる蟻のような部下たちを見て、ほんの少しだけ引いてしまったことは胸に潜めておこう。 いや、訂正――結構、引いていた。 それでも土方は、せっかく近藤が取ってきてくれたのだし、と無下にはねのけることはできなくて、おとなしく筆を取った。 そうしてでかでかと書いた『煙草、マヨネーズ一年分ほしい』という文字を見て、近藤がやっぱりというふうに苦笑した。 「それでいいのか?」 「ああ」 土方は頷いて、未だ笹の周りに集まる隊士を蹴散らし、手の届く一番高いところに短冊を吊るした。
「……アンタがいれば、俺は、それだけでいいんだ」
 ほんとうの、いちばんの願いは、決して表立って言えるものではなかったので。

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20060707