貴方にしか見せません。
朝のラッシュ時、満員電車。
換気がされていない車内はうんざりするほど空気が悪い。
「大丈夫か、トシ」
押し潰されながらも、俯き加減の土方を案じて訊けば、「ん……」と心許ない小さな返事があった。
「あんまり、大丈夫、じゃねェかも……」
「え」
ほとんど身動きのできない空間、それでもなんとか身じろぎして土方の顔色を窺おうとした近藤の首筋に、ふわり、柔らかい毛先が触れた。
土方がしなだれかかってきたのだ。思わず近藤は硬直する。
「トシ、くん、」
「ちょっとの間だけ、こうしてていいか? すぐ、治ると思う、から」
「お、おう」
俺でよければ枕にでもなんでもなってやるぞ。
言うとくすり、熱い吐息が首筋にかかり、近藤はわずかに身をすくめた。
それから十五分ばかり、途中で下車する乗客も多いのでだいぶ空いてはきたけれど、ふたりは同じ体勢のまま――密着したまま目的の駅へと到着した。
土方の腰を抱えるようにしていた近藤は、だるそうに重心をこちらに預ける土方のために近くのベンチを目指す。
「トシ、大丈夫か?」
「何がだ?」
「え」
――具合が悪いんじゃなかったのか。
近藤の言葉は土方の確信めいた笑みの前に飲み込まれた。
「なァ近藤さん。どうせ枕になってくれンなら、ラブホでしてくれよ」
仮病を使おう 2
20060620