拾ってきたのは犬でも猫でもなく、紛れもない人間だった。
一度手を差し伸べると彼――そう、彼は俺よりもわずかに年下だった――は道場にすっかり居ついてしまった。
ろくに会話もなかったから、そこが居心地好かったのかどうかはわからなかった。
だけど悪いと思っていたらすぐに出て行ってしまうだろうから、きっとなかなかのものだったのだろう。
ここにいろと無理強いをしたつもりはないし、出て行くなと懇願した覚えもない。
ただ「好きなだけいていいぞ」と大手を広げて彼を受け入れただけなのだ。
最初は無口な男だと思っていたが実はそれは本性ではなかったらしいというのが次第に判明していくこととなる。
気を許していなかったのかそれとも人見知りだったからか。後者はまず有り得ないだろう――百パーセント胸を張ってそう言える。
日が経つにつれて、つまり「気を許されて」いくうちに、厭にぞんざいな態度が目につくようになりまだ幼い総悟とも口喧嘩をしばしば繰り広げるようにもなった。
俺はそれを眺めているのが好きだった。
微笑ましい光景に目を細めているとふたりは訝しげにこちらを見やってとりとめのない喧嘩に終止符を打つのだ。
「あれ、もう終わり?」
「……なんかすげー、バカバカしくなってくる」
アンタを見てると、そう苦々しく言い放っておきながら数時間も経たないうちにまた喧嘩を始めるのだから学習力がないというかある種の習慣になってしまっているというか。
平和だなァ、なんて漠然とした幸せを感じることも少なくなかった。
大体「近藤さん、近藤さん」なんて懐かれりゃ情が移ってしまうしまた守ってやりたいと思ってしまうのも男の性ってモンだ。
たとえソイツがわざわざ守ってやらなくても充分すぎるほどの強さを持つ男だったとしても、だ。
だからその感情――言わば家族愛というのだろうか――にまったく予期していなかったものがいつの間にか含まれていることに気づいて俺は、愕然としたのだった。
気づかないふりをするにはどうやら手遅れだったらしい。
たとえばじわじわと気づかないうちに身体を侵していきなんの処置も施せないほど蔓延していた癌のように。……たとえが悪すぎたか。
とにかく、女の尻を追っかけようが何をしようが、頭の中から彼――土方十四郎の影が消えることはなかったのだ。