おどけて道化師 2
近藤さんと顔をあわせたとき、軽い調子で見合いの話をきりだすつもりだった。アンタ、見合いするってほんとう? 相手はどんなやつだよ、となんの気負いもうかがわせずに笑いとばすくらいの勢いでいるはずだったのに、実際の俺といったら、近藤さんと目があったとたんに足がすくんでしまい、軽口どころかひとことも発することができなかったのだ。
居間には卓袱台をはさんで近藤さんと総悟がいた。おおトシ、といって笑うあたたかいまなざしと、不快さあらわに細められたまなざしのふたつに見つめられながら、俺はぎこちなく部屋のなかへ一歩を踏みだした。
「近藤さん、はやく写真、見せてくだせェ」
俺を無視して、総悟が近藤さんのほうに身を乗りだした。近藤さんは俺から総悟へと視線を移すと、かたわらに置いてあった白い封筒を卓袱台のうえにすべらせた。総悟が封筒からとりだした台紙を見て、俺はそれがなんであるかを瞬時に悟ってしまった。
見合いの話はほんとうだったのだ。
覚悟していたにもかかわらず一瞬のうちに暗い絶望におそわれた。
「そういえばトシ、俺な、今度」
「知ってる」
みなまでいわせず、そう言いきるなり顔をそらした。近藤さんが「ああ」だとか「そうか」だとかつぶやくのをきいて、なにをいまさら、とひねくれた気分になる。どうせ俺は“ついで”で見合いの件をだされる程度の人間なのだ。
「近藤さんにぴったりだ」
写真を見た総悟が声をあげるのをきいて、俺はひやりとした。
なにがどう近藤さんにぴったりなんだ。問いただしたかったが、近藤さんがいる手前ぐっとがまんした。
総悟がご丁寧に見合い写真をこちらに差しだしてきたが、俺はそれから目をそらした。一瞬視界に入ってしまった着物の柄がやけに生々しく網膜に焼きついた。
「見廻りにいってくるから、あとで見る」
先ほどの隊士とおなじ言い分をしてしまったことに気づいた俺はひどく不快な気分になった。
べつに俺は逃げだしたわけではない。どうせまえとおなじような相手だろう。そうわかりきっているから、俺がわざわざ見る必要はないのである。
部屋をでるとき、俺の名前を呼ぶ近藤さんの声がきこえたが足をとめなかった。
俺は腹がたっていた。見合い話をしてくれなかった近藤さんにも、ろくでもない相手をとって「ぴったりだ」と言い放った総悟にも、なにより言い訳がましく見合い話を避けながらも傷ついている、どこまでもひねくれた俺自身に嫌悪感で吐き気がする。
20091124