おどけて道化師 1


 近藤さんの見合い話がとびこんできたのは、強い日差しが照りつける初夏のことであった。「局長がまた見合いをするらしい」と庭で数人の隊士たちが話しているのを偶然耳にして、俺は見合いを知ったのだ。
 初耳だった。近藤さんからなにもきかされていなかった。
 俺がその隊士たちのほうをじっと見ていると、そのなかのひとりが縁側に座る俺の視線に気づき、怒鳴られるとでも思ったのかあわてたふうに「そろそろ見廻りの時間だ」とまわりの者と連れ立っていってしまった。
 無性に煙草が吸いたくなった。
 細く息を吐きだしながら、煙草をくわえる。
「見合い、ねェ」
 近藤さんが、見合いをするのだという。
 それがただの浮ついた噂にすぎないのか、それとも事実なのかはいまの俺には見当もつかなかった。
 思いだすのは過去に一度、あわや結婚寸前までいったどこかの国の王女のすがただった。
 ――どうせ。
 またあのようなたぐいの相手だろう。きっと、ゴリラだとか天人だとかゴリラだとか、まともな相手ではないにちがいない。
 くちびるをゆがめて笑い、煙草に火をつけようとしたが、ライターは火花を散らすだけでなかなか着火しない。いらだちが募り、煙草を足もとに落とし、踏みつけた。砂利にまぎれ見えなくなるまで、踏みつぶした。
 俺は、なにも知らなかったのだ。

20091121