どしゃぶり、のち


 どしゃぶりの雨のなか、一本の傘にふたりで入った。
 ふれあわなければならない距離に耐えきれなくなって、帰りたくない、と言った。どうせ雨の音でこんなばかげたつぶやきは聞こえやしないと高をくくっていたら、近藤の視線がこちらに向いた。どうやら伝わってしまっていたらしい。
 近藤はしかしなにを勘違いしたのか、「すまん、寄り道しないでさっさと帰ればよかったな」とすまなそうに頭をかいた。このひどい雨のせいで帰るのが億劫になったのかと思われたのかもしれない。
 ちがうよそうじゃない。べつにアンタとふたりでなら雨に打たれるのだって厭わない。帰りたくない、という言葉をそのまま額面どおりに受け取ってほしかった。
 どちらからともなく手をつないだ。反対側の手で傘を持っている近藤の半身が冷たい雨にさらされていた。こちらに傘を傾けすぎなのだ。それを指摘しても、俺はだいじょうぶだよ、と言ってとりあってくれない。
「どうせ、もうすぐ着くし」
「じゃあ、アンタが先にシャワー浴びてくれよ」
「いっしょに入ればいいだろう」
 ごくあたりまえのように言うので、土方はそれ以上なにも言えなかった。


 朝、土方が目を覚ましたときには雨はやんでいた。夜中のうちにやんでいたかもしれないが、それどころではなかったのではっきりしない。まだ眠っている近藤を起こして、シャワーを浴びた。
 外にでると、まぶしいほどに晴れていた。あちらこちらに残る水溜りが青い空を映しだしている。そんななかで揺れる二本の傘はひどく不釣合だったが、土方はむしろ見せびらかして歩きたかった。


20090718