くもりのち、あめ


 ぶあつい灰色の雲が雨粒を落としはじめた。ザアザアと降りつづける雨はなかなかやむようすをみせない。
 土方は、数時間前に出かけた近藤のことを思いだした。
 傘を、もっているだろうか。
 近藤が屯所を出たときには雨は降っていなかったから、もっていないかもしれない。それならば、迎えにいったほうがいいだろうか。
 近藤の行き先はキャバクラで、土方はそれを考えるとわずかに顔をしかめたが、それでも携帯電話へと手をのばしていた。
 が、つかむ寸前ではたと動きをとめる。
 こんなことで、わざわざ楽しんでいるところを邪魔するのはいかがなものか。妙な躊躇いがじわりとわきおこる。だからといって連絡をしないで店に行ったとしても、行きちがいになる可能性もあるし、もうあの店を出て河岸をかえているかもしれない。
 いまどこにいるんだ、と訊いてみるのもいいかもしれない。だが、いったん躊躇してしまった土方の手は宙ぶらりんのまま、携帯のうえでいつまでも逡巡していたのだった。
 その迷いをたちきるかのように、携帯の着信が鳴り響いた。土方は驚いて手をひいたものの、その一瞬の動揺を恥じるようにあわてて携帯をとった。
 近藤だった。店の喧騒に負けないようにか、やたらと声が大きかった。迎えにきてくれないか、という。そもそも土方はそのつもりでうじうじと悩んでいたのだから、断る理由はどこにもなかった。
 べつにかまわねえよ、と土方はすました声でこたえた。内心では、迎えに行く正当な理由ができたと胸をなでおろしながら。
 電話を切ると、ふたたび雨の音しかきこえなくなった。先ほどまではうるさいほどだったのに、いまではやけに静かに感じて、土方はその静寂がいやでおもむろに腰をもちあげた。

20090623