そんなはずではなかったんです。


「なあ近藤さん、したくねえ?」
 市中見廻りを終え、屯所へもどる道すがらのことだ。前方に、いわゆる連れ込み宿を発見した土方は、となりを歩く近藤の裾を引っ張り彼を誘惑した。え、と上擦った声をあげた近藤は、通行人の目を気にしたふうにきょろきょろとあたりを見回した。
「まだ昼間だぞ」
「関係ねえよ」
「それに勤務中だ」
 そうきっぱりと言い切って、近藤はすたすたと早足で歩きだしてしまう。取り残された土方は、不機嫌そうに眉根を寄せて煙草をくわえた。
「……勤務中に、しょっちゅうほっつき歩いてんのはだれだよ」

 その日の夜、近藤が土方の部屋にやってきて、めずらしく近藤のほうから抱きしめてきた。土方は、ほんのりとしあわせな気分を味わいながら、ふと昼間のことを思いだした。
 このまま流されてしまうのは、なんとなく悔しい。
 長い接吻けが終わると、土方は胸もとに伸びてきたごつい指を捕らえて、近藤の胸板へと押し返した。
「俺、いまそんな気分じゃねえの」
 顔をそむけ、そっけなく言い放つ。
 だが、本心ではない。
 ちょっとくらい強引にきてくれたら、許してやろう。
 土方のそんな目論見は、しかし無残にも打ち破られた。
「……わかった」
 しょんぼりと肩を落として、近藤が離れていってしまったのだ。土方の口から、え、と間の抜けた声がこぼれ落ちた。うそだ、と言うのもなんだか間抜けすぎて言いだせない。ついには近藤が、「おやすみ」と言って部屋をでていってしまった。おやすみ、と言い返すひまもなかった。
 ひとり部屋に取り残された土方は煙草をくわえ、つぎはいつになるんだろうかと、味気ない煙とともに重たいため息を吐きだした。


20080708