スパイスは絶望と


 携帯電話の着信音が鳴っている。
 余裕などない土方はそれに気づかずにいたが、近藤の動きがとまったため怪訝に瞼を開けた。近藤があらぬ方向をむいているのに気づいてその視線を追うと、先には携帯電話がある。そこではじめて着信音が土方の耳に届いたのだった。
 すまん、と言い残して近藤がするりと抜け落ちていった。唐突なことだったので、とめる暇もなかった。
「近藤さん」
 とがめる声を近藤の背中にぶつける。まだ途中だろ。それに、まだ一度も達していない。
「俺もう……、ひとりでしちまうからな」
 携帯を片手に振り向いた近藤がすまなさそうに顔をしかめる。もう一度すまんとくりかえし、部屋をでていってしまった。
 あそこまで盛りあがっておいて、ひとりでするなんてもったいないではないか。土方は見せつけるように下肢に伸べていた手を布団のうえにぱさりと置いて、近藤の消えた襖を恨みがましくにらみつけた。
 俺じゃなかったらアンタみたいな男、とっくに愛想つかされてるよ。

20080704