みるなさわるな口をひらくな
「あれ、トシ。髪切った?」
顔をあわせるなり近藤さんがそう言ってくるから、俺はなんとなくくすぐったくなってしまってぶっきらぼうにうなずくことしかできない。
「切ったけど」
ほんの数ミリ程度だ。以前のように、背中を隠すくらい長かった髪をばっさり切ったわけではないから別にそれを指摘されて照れる(照れる!)なんて思春期のオンナノコじゃあるまいし動揺することなんざこれっぽっちもありゃしないが俺はやっぱり、俺をものめずらしそうにジロジロジロジロ見つめてくる近藤さんの目を見返すことができない。
「なに、そんなめずらしい?」
べつに髪切ったのはじめてってワケじゃねえのにいちいちそんな反応されてもこまる。あいかわらず目をそらしたまま肩をすくめてみせると、
「だってほら、首ンとこ、さわりやすい」
近藤さんが手をのばしてくる。俺は、すっかり油断していて(というか視界にいれていなかったので)うなじになにかがふれたのと同時にへんな声をあげてしまった。なにかというのは言わずもがな近藤さんの指で、そっちから仕掛けてきたくせに近藤さんは目を大きく見開いてあわてて手を離した。
「びっくりした」
「お、俺がびっくりしたわ!」
「いや、だってさわりやすそうだったから」
さらりと言われて思わず脱力。
「……アンタはさわりやすそうだったらそこらへん歩いてる女の首もさわるのかよ」
真選組の恥だからそれはやめてくれよと下手な軽口をたたいてみせようかと口を開きかけたところで、近藤さんがふたたび俺のとりもどしかけていた平静をさらっていく。
「いや、おまえだけだぞ」
目があう。
ああぜひそうしてくれよと笑いとばす余裕もなく、まっすぐな視線にとらわれたまま俺は腰が抜けそうになる。
20080617