現代パロ/アパート住まいの近藤さん/トシくんと猫の不毛な争いは続く


それは真夜中、激情サバイバル/中編


 コタツの天板に置いた煙草ケースを、土方は苛立たしそうに指先でこつこつと叩いた。いつもであれば煙草をくわえているはずの口許をへの字に曲げ、不機嫌なオーラを醸しだしている。
 禁煙令が布かれたのは、ほんの一時間前。
 煙草を口にくわえた土方を目にした近藤の第一声が、それだ。トシ、こいつがいるから煙草は控えてくれな。猫を撫でながら近藤がさり気ない口調で、しかし土方が反論できないくらいのにっこり笑顔で言ったのだった。
(……近藤さんはそいつのほうがずっと大事なんだ)
 土方は拗ねているのだった。
 なんともわかりやすい土方の態度に気づいているのかいないのか、近藤はありきたりなメロドラマの次回予告を観終えるや否や、おもむろに腰をあげた。
「それじゃ俺、風呂入ってくるな」
 ずっと近藤の膝の上に落ち着いていた猫は、近藤が立ちあがると同時に床に音もなく飛び降りた。土方はそれを険のあるまなざしで見やって、「俺も」と近藤のあとにつづくべく立ちあがろうとした。
 だが、それを大きな手のひらで制したのは近藤だった。
「トシはそいつのこと見ててやってくれ」
 そいつ、とはむろんいまのいままで近藤の膝を占領していた猫のことにほかならない。
 鼻白んだ土方は思わず本音をこぼしてしまった。
「……俺、そいつ嫌い」
「え。トシ、猫嫌いだったか?」
「じゃなくて、そいつ限定!」
 というよりも、土方にしてみれば近藤に近づくすべてのものを“気に食わない”対象として見ているのだけれども。
「じゃあ、俺が風呂入ってるあいだに仲良くなってるんだぞ」
 土方の態度にもすっかり意に介していないふうに、近藤はひとりで風呂に行ってしまった。
 残された土方は、口惜しくもおなじ境遇に陥った猫に恨めしげな視線を向けた。猫はそんな土方の視線をなんら気にしたそぶりも見せずに、ぴんと尻尾をたててそれまで近藤が座っていた場所へ小柄なからだを横たえたのだった。
「おまえ……、とこッとん俺に喧嘩売ってるよな」
 近藤には悪いが、彼、あるいは彼女――近藤に性別を聞いていないからわからないし、だからといって自ら確かめるのもいやだし、そもそもここでソイツの性別など問題ではない――と仲良くなることはまずないと土方は苦々しく思った。
「ふん、おまえなんかに近藤さんは渡さねーからな。部外者め」
「なんだトシ、そいつと話してるのか」
 突然背後から話しかけられ、土方は飛びあがりそうになるほど驚いた。
「こんど、さ……ッ」
 振りかえるといつのまにか風呂場からもどってきていた近藤がいて、タンスをあさりはじめる。どうやら忘れ物をしたらしい。下着を引っ張りだすと、くちびるをゆるませて土方に笑いかけた。
「さっそく仲良し?」
「ち・が・うッ!」
 断じてちがう。そんなことあるわけがない!
 大きく反論してから、土方ははっと顔色をかえた。
「聞いてた……?」
「うん?」
「……なんでもねェ」
 聞いていなかったのならいい。あんな、猫に嫉妬丸だしのせりふなんか。
 近藤がふたたび姿を消すと、土方はちいさく息を吐きだした。ちいさく丸まったからだを憎々しげに見やると、視線に気づいたように顔をあげた猫は、土方を見るとつまらなさそうにあくびをした。

20080202